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法科大学院における教育の質の改善について ――アンケート調査結果の公表に当たって――

2009年6月1日 
法科大学院協会

Ⅰ 教育の質の改善に向けた取組み 

 法科大学院制度が発足して早5年が経過しました。この間の法科大学院修了者で過去3回(平成18年~20年)の新司法試験に合格したものの数は4925名、同じ期間の旧司法試験合格者は、941名でした。今後、新試験の合格者の割合はさらに増加し、平成23年度以降は新試験のみが行われることになります (注1) 。このことからも明らかなように、法科大学院制度は、司法制度改革審議会報告書が目指した法曹養成の中核機関として着実に定着しつつあります。 
 しかし、その反面、最近の入学出願者数の減少(とりわけ法学の学習経験のないいわゆる純粋未修者および社会人)、新司法試験合格率の低さ(とくに未修者コース修了者)、司法修習修了後の就職難など、法科大学院制度をめぐってさまざまな課題が山積しています。一昨年来、弁護士会や一部の政治家等から司法試験の合格者数の抑制、予備試験の拡大その他、法科大学院制度そのものを脅かすような批判が唱えられていることもご存じのとおりです。 
 これに対して、当協会は、折にふれて決議や声明 (注2) を発表したり、各種のシンポジウム(注3) を開催して、一方では当協会の会員である全国74校の法科大学院に対して教育の質のさらなる向上への奮起を訴えるとともに、他方では広く社会に対して法科大学院の意義や実状についてご説明し、正しく理解していただけるよう努めて参りました。しかし、これまでのところ、当協会のこのような努力は、十分に効を奏しているとはいえない、というのが率直なところです。

Ⅱ アンケート調査の目的 

 このような中で、当協会は、協会規約3条(注4) に基づき、理事会決定と総会でのアナウンス(2008年12月6日)を経て、本年1月8日に全国の法科大学院に対して教育の質の改善に関するアンケート調査を実施し(注5) 、4月初旬までにすべての法科大学院から回答を得ました。 
 アンケートの質問項目は、次のとおりQ1からQ5までの5項目で、回答は該当する答に○をつけるとともに、その具体的内容を記述してもらう方式でした。

  Q1  貴校では、入学者選抜において将来の法曹の卵として真に相応しい学生を選別するために、法科大学院発足後に選抜方法の改善をされていますか。
  Q2  貴校では、十分に教育力のある教員陣を確保するための工夫(採用基準・選考方法など)をされていますか。
  Q3  貴校では、厳格な成績評価を行うために、法科大学院発足後に新たな工夫をされていますか。
  Q4  貴校では、厳格な修了認定を行うために、法科大学院発足後に新たな工夫をされていますか。
  Q5  貴校では、質の高い入学者および教員を確保できるかどうかの見地から、法科大学院設置時に決められた入学定員について見直しをされる予定がありますか。

 当協会がこのようなアンケート調査を実施するに至った理由(目的)は、一つには、発足以来、各法科大学院が入学者選抜、教員確保、厳格な成績評価・修了認定、入学定員等についていかなる検討・対応を行っているかについての情報を法科大学院間で共有し、互いの改善努力の参考に資するためです。 
 もう一つは、法科大学院が社会から負託された使命にかんがみ、その営みを社会に公表して説明責任を果たすとともに、社会の正当な理解を得るためです。この目的のためには、必ずしも個々の法科大学院名を顕名にする必要はないと考えて、アンケート依頼の際には、匿名での公表につき、各会員校の同意を得ました。また、そのために情報管理には協会としても意を用いたつもりです。

Ⅲ 今回の公表について 

 ところが、先々月、一部マスコミによって、このアンケート調査の結果の特定部分(Q5に対する回答の、しかも定員削減率の部分のみ)が全体のコンテクストから切り離され、しかも個別法科大学院名を明示した形で報道されるに至りました。このようないわばつまみ食い的報道は、法科大学院における教育の質の改善努力の全体的状況についてかえって誤解を与えるおそれがあり、個々の法科大学院にとってはもとより、法科大学院協会にとっても、遺憾であります。 
 そこで、改めて、法科大学院協会として、各会員校の個別的同意を求めて、ここにアンケート調査結果の全体を――改善内容の具体的記述をも含めて――公表することとしました。これによって、先にマスコミによって報道された定員削減に関する情報は、各法科大学院がこれまで行ってきた教育改善の一端に過ぎず、各法科大学院とも、この5年間に入学者選抜から修了認定までのそれぞれの局面に応じて、多様な改善の努力を積み重ねてきていることを理解していただけると考えるからです。 
 公表に当たってお断りしておきたいことがあります。その第1は、回答の全部または一部の公表(匿名あるいは顕名の)に同意を得られなかった法科大学院については、空欄にしてあることです。上述した公表の目的からすれば、情報公開の範囲はなるべく網羅的かつ具体的であることが望ましいとはいえ、それぞれの大学院には、なお慎重に検討中である事項や、大学当局等との関係でまだ公表できない事項もあると考えられますので、会員校が「公表できない」と指定した事項については、その意向を尊重しました。 
 第2に、ここで公表するのは、2009年3月末を基準とする情報であり(それ以外の基準日を設定する法科大学院についてはその旨個別に記してあります)、その後の各法科大学院の検討により、さらに変更される可能性があることです。とくに入学定員の変更というような微妙な事項については、各大学の入試要項の発表を以て正式に公表されますので、その点に留意していただきたいと思います。

アンケート結果

Q1  貴校では、入学者選抜において将来の法曹の卵として真に相応しい学生を選別するために、法科大学院発足後に選抜方法の改善をされていますか。
PDF結果はこちら
Q2  貴校では、十分に教育力のある教員陣を確保するための工夫(採用基準・選考方法など)をされていますか。 
PDF結果はこちら
Q3  貴校では、厳格な成績評価を行うために、法科大学院発足後に新たな工夫をされていますか。 
PDF結果はこちら
Q4  貴校では、厳格な修了認定を行うために、法科大学院発足後に新たな工夫をされていますか。 
PDF結果はこちら
Q5  貴校では、質の高い入学者および教員を確保できるかどうかの見地から、法科大学院設置時に決められた入学定員について見直しをされる予定がありますか。 
PDF結果はこちら

 注

  1.  ただし、平成23年は、平成22年の旧司法試験により筆記試験免除となった者に対する旧司法試験の口述試験が行われる。
  2.  法科大学院協会の総会決議や理事会・理事長の声明所感の発表としては、2008年以降、①2008年3月22日総会決議②同日の理事長声明「理事長を去るにあたって」(佐藤幸治)③6月7日理事長所感「法科大学院を取りまく現状について」(青山善充)④8月7日理事会声明「法曹養成制度をめぐる最近の議論について」⑤2009年3月24日理事長所感「入学定員削減問題に関する所感」(青山善充)がある。
  3.  シンポジウムとしては、2008年以降、①2008年3月22日「未修入学者教育方法の開拓」(法政大学)②8月23日「新たな法曹養成制度における法科大学院の在り方を考える」(文科省・財団法人文教協会との共催、上智大学)③12月6日「法科大学院の着実な発展のために何が必要か」(早稲田大学)④2009年3月14日「実務基礎教育の現状と課題」(神戸大学)、等。
  4.  「本会の目的は、法科大学院相互の協力を促進して法科大学院における教育水準の向上をはかり、もって優れた法曹を養成し、社会に貢献することにある。」
  5.  協会は、アンケート調査の結果を2月5日に各会員校にフィードバックするとともに、回答が「検討中」であった項目を中心に3月5日に追跡調査を実施した。

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