法科大学院協会理事長
片 山 直 也
令和2年(2020年)4月、いわゆる「3+2」、法曹コース(連携法曹基礎課程)と司法試験在学中受験を基軸とする新たな法曹養成制度が始動しました。これは、平成16年(2004年)に法科大学院を中核とした法曹養成制度が導入されて以来の本格的な制度改革です。
「理論と実務の架橋」そして「多様な法曹の養成」という法科大学院の理念は普遍ですが、その理念を実現するための制度および運用のあり方は、一定の安定性を確保しつつも、不断に試行錯誤と見直しを繰り返し、より良い法科大学院制度が模索されなければなりません。改善の歩みを止めることは許されず、理想の法科大学院制度を目指して、暫定的な到達目標を幾度となく設定し直し、成長・進化が継続されます。法科大学院を中心とした法曹養成制度の成果は、今や法曹人口の半数を占めるに至った法科大学院世代の法曹の輝かしい活躍によって自ずと測定されることになるでしょう。まずは、この15年間、現場で法科大学院教育に携わってこられた会員校の皆様、法曹界、関係省庁、認証評価機関、自治体・企業法務部など法科大学院を支えてこられた関係各位の皆様の並々ならぬ情熱と努力に、改めて敬意を表したいと思います。
開設15年を経て、歴史的な改革により、令和2年からリニューアルされた法曹養成制度がスタートしようとしています。わが国の法科大学院制度の歴史は、「創成期」の第1期を経て、「成長期」あるいは「転換期」ともいうべき第2期に移行したといっても過言ではないでしょう。そして歴史的な改革は今もまさにその途上にあります。
平成16年の法科大学院制度創設の際には、伝統的なシヴィル・ローにおける法学教育システムである法学部をそのまま残して、コモン・ローにおけるロースクール制度が持ち込まれました。この言わば「接ぎ木」型の制度設計の盲点を突く形で、本来の趣旨を超えて運用された予備試験制度が、図らずも、法学部において入学当初から法曹を志す優秀な法曹志願者のニーズに応える結果となってしまいました。しかしこのような優秀な法曹志願者にこそ、目前の司法試験の合格という目標のみを目指すのではなく、法科大学院の充実したカリキュラムの中で研鑽を積んで、柔軟な法的思考能力と問題解決能力を身につけ、更なる可能性を広げて欲しいというのが法曹関係者そして法曹養成に携わる者の偽らざる気持ちです。その強い思いが、今回の抜本的な制度改革に結実したということもできるでしょう。この数年間で法曹コースをしっかりと根付かせることができたならば、いわばその呼び水として機能してきた予備試験制度は歴史的な役割を終え、本来の制度趣旨に適合した形での運用を行うべきとする社会的な機運が高まるものと確信しています。
令和元年の制度改革では、「段階的かつ体系的な教育」という視角から、新たに法学部を法曹養成システムに取り込み、法曹コースと法科大学院の連携が図られることになりました。法律基本科目については、「基礎科目」と「応用科目」を区別し、法曹コースと法科大学院の役割分担も明確にされています。他国に例を見ない、わが国独自の「連携」型の法曹養成制度の誕生です。さらに、司法試験の在学中受験を可能とすることにより、いわゆるギャップタームを解消し、法科大学院と司法修習との連携がさらに強化されることとなりました。
予期せぬ新型コロナウイルスの感染拡大により、法科大学院をめぐっては厳しい状況が続いていますが、まずは、このコロナ禍を乗り越え、「3+2」の新たな法曹養成制度を軌道に乗せることが、協会、ひいては法科大学院各会員校の当面の課題であることは多言を要しないところです。
協会新執行部が任期満了となる3年後、令和5年には、「3+2」制度が完成年度を迎え、最初の司法試験在学中受験が実施されます。この間、協会は、各会員校とともに、法科大学院における教育水準の向上に務めるとともに、キャラバン等のPR活動などを推進することによって、制度改革の趣旨と新たな法曹養成制度の魅力を広く社会に広報し、法曹コース・法科大学院ひいては法曹志願者の増大に貢献できればと考えています。
他方、多様な法曹の養成という法科大学院制度に課せられたもう一つの重要な課題として、未修者コースの制度改革があります。未修者コースについては、法曹コースとともに、今般の制度改革の車の両輪の一つです。中教審(第10期中央教育審議会大学分科会法科大学院等特別委員会)においても、ICTの活用や長期履修制度の導入など、制度改革に向けた議論が既に開始されています。未修コース1年次における「基礎科目」の教育に、本格的にアクティブ・ラーニングの手法を用いた、法曹コースとは異なる新たな教育メソッドを導入し、さらに法曹を志す社会人が働きながら学習に着手する機会を与えるために、オンデマンド教材等を活用した授業の展開、そのための法科大学院間での教材の共同開発や共同授業のあり方が模索されています。
今後は、「未修者」「既修者」という区分は必ずしも的を射た区分ではなくなるかも知れません。法学部で学んだ「法曹コース・法学部出身者」と、法科大学院で基礎科目を修得した「社会人・他学部他研究科出身者」が、2年次以降は、クラスメートとして切磋琢磨し、応用科目・展開先端科目・実務基礎科目の学習を積み重ねて、ともに法曹を目指すことになります。
未修者コースの制度改革に関しては、教育メソッドの開発に向けて、各会員校の意見や取り組みを集約したり、あるいは相互協力を促進する枠組みを設けたりするなど、協会に与えられたミッションを着実に果たして行く所存です。
さらに、多様な法曹の養成、司法修習との連携という観点からは、司法試験在学中受験後の3年次の夏休みおよび秋学期におけるカリキュラムの展開も、今回の制度改革のもう一つの柱です。クリニックやエクスターンシップなど臨床系科目の充実、海外提携校への短期留学も含めたグローバル化対応など、この15年間の各法科大学院の先端的な取り組みの経験を活かして、会員校の連携による活性化が一層推進されることが期待されます。
協会は、会員校相互の協力の促進、法科大学院における教育水準の向上、そして優れた法曹を養成し社会に貢献するとの目的に沿って、上記の課題に的確に対応し、新たな法科大学院制度の魅力を広く社会に発信して行きたいと考えています。
より多くの皆様に、法科大学院制度、広く法曹養成制度にご関心をお持ちいただければ幸いに存じます。法科大学院制度ひいては法曹養成制度の発展に向けて、関係各位の一層のご理解とご支援を心よりお願い申し上げます。