平成28年度教員研修の報告

平成28年12月10日
教員研修等検討委員会

【はじめに】

 法科大学院協会教員研修等検討委員会は、平成28年度教員研修を、刑事系教員研修については平成28年9月2日、民事系教員研修については同年9月7日に、いずれも司法研修所において実施した。各研修においては、69期A班の集合修習を見学した上で、法科大学院教員と司法研修所教官の意見交換会を行った。
 教員研修においては参加人数の定員が限られていることから、より広く法科大学院教員に研修内容を伝達するため、以下、意見交換会の内容を中心に、教員研修の概要を報告する。
 なお、参考までに、報告の末尾に本年度教員研修案内文を掲げた。

1 平成28年度教員研修の実施

(1)平成28年9月2日(金)午後に実施した刑事系教員研修には、各法科大学院から15名、法科大学院協会側から3名(記録係1名を含む。)、合計18名が参加した。
 13時20分に開始された同研修において、参加者は、まず、司法研修所所付から、見学するカリキュラム(「刑事共通演習(尋問)」)の概要に関する事前説明を受けた上で、13時40分から16時35分まで、いくつかの教室に分かれ、第69期修習生に対する講義の様子を見学し、その後、大会議室に集まり、16時50分から18時30分まで意見交換を行った。
 当日見学した「刑事共通演習(尋問)」は、刑事裁判、検察及び刑事弁護の共通科目として行われるもので、修習生を裁判官役、検察官役、弁護人役等に分け、証人尋問及び被告人質問を実演させ、尋問等の結果を踏まえポイントになった事項を指摘する形で論告・弁論を実演させ、その上で裁判官役が争点に関する判断を示す(その後、教官から、尋問において顕れた手続上の問題点、法廷で的確な心証が取れるような争点に即した適切な尋問の在り方等について講評を行う)、という内容の講義であった。

(2)平成28年9月7日(水)午後に実施した民事系教員研修には、各法科大学院から10名、法科大学院協会から2名(記録係1名を含む)、合計12名が参加した。
 研修は13時20分から開始し、見学するカリキュラムの概要に関して所付から事前説明があった後、13時40分から16時35分まで講義(演習)を見学し、その後16時50分から18時30分まで意見交換会を実施した。
 見学をした集合修習は、「民事共通演習 2(弁論準備手続期日)」というカリキュラムであり、修習生が、裁判官役、原告訴訟代理人役、被告訴訟代理人役等に分かれ、事前配布された事件記録を基に、弁論準備手続期日における争点整理を実演し、それについて教官が講評を行うという内容であった。

2 刑事系教員研修における意見交換会の概要

 講義の見学を終えた後、司法研修所教官の出席を得て、当日の研修に参加した法科大学院教員による意見交換が行われた。各法科大学院及び法科大学院協会側の参加者は上述のとおりである。また、司法研修所からは、刑事裁判教官室、検察教官室、刑事弁護教官室の各教官が出席した。
 法科大学院協会教員研修等検討委員会の佐藤隆之委員(慶應義塾大学)の挨拶、関係者への謝意表明の後、参加者全員による自己紹介が行われた。引き続き、佐藤委員の司会のもと、「法科大学院における教育の到達点と司法修習との連携のあり方」というテーマに関して、法科大学院教員2名、司法研修所教官1名から順次報告(話題提供)があり、その後、意見交換が行われた。

(1)報告(話題提供)の概要
 上記テーマのもと、法科大学院側からは、刑事法教育の現状と課題をめぐり、実体法、手続法に関連する科目を担当する各教員(前者については研究者、後者については実務家)から、その所属する大学における実践・経験に基づく報告(話題提供)が行われた。その概要は以下の通りである。

 まず、「LSにおける刑法教育の到達点と課題-一つの事例演習から」と題する研究者教員による報告では、最近の最高裁判例を素材として、「刑法の適用範囲」をめぐる問題を含む事例を出題した際の学生の反応が紹介された。授業の中で事例演習を行うことに対する学生の評価は肯定的であるものの、法適用の入り口にある基本的な問題を実感させたいとの教員側の配慮とは裏腹に、刑法の授業で正面から取り上げられることの少ない、「刑法の適用範囲」について時間をかけて勉強することには消極的であること、授業で使用するケースブックなどの編集に際しては、判例・通説がなぜそこに落ち着いたのかを考えさせようと設問を作っているが、事例の解決に有用な理論を一つだけ覚えればよいという割り切りによるのか、学生からは、悩む「理論教育」を敬遠する傾向や少数説に入り込むことに対する拒否感のようなものが感じられることなどが指摘された。
 その上で、刑事実体法教育の現状及び今後の課題として、以下の諸点が挙げられた。
 ①法科大学院では、知識を伝達することが必要であるが、授業時間数が限られていることから刑法全体を網羅することはできず、内容の取捨選択をめぐる葛藤は尽きない。また、現代社会の要請する「法改正」の内容・背景について授業で十分扱えているとはいえないと感じる。
 ②法科大学院では、授業において判例を素材とするが、ひととおりの解説にとどまることなく、他の判例との比較や当該判例の事実を変化させた事案に対する解決までをも目標とすべきか、悩みがあり、また、「射程」についての理解が定着していない場合に、当該判例をどう扱うべきか、試行錯誤している。
 ③法科大学院では、総論・各論の知識を結びつけた上で、事例問題における争点を指摘でき、当該事例の理論上の扱い方を説明できること、そして、先例のない問題についても、一定の解決を示すことができることが到達すべき水準と思われるが、さらに、訴訟法とのつながりを意識させ、実践を想定した議論のできる能力を涵養することも重要な目標として意識されてよいであろう。

 次に、「法科大学院における刑事手続法教育の到達点と課題」と題する実務家教員による報告では、報告者の所属する法科大学院における関係科目について、基本的知識や理論の修得を前提とした上で、司法修習への円滑な橋渡しを意識した教育及び成績評価を行っている旨の説明が行われた後、手続法教育の総仕上げに当たる実務基礎科目の試験内容(一つの事例に対し、裁判・検察・弁護の各教員が出題)が、実務法曹に必要とされる複眼的思考を涵養するための実践として紹介された。ただ、同時に、学生の理解度に幅のある状況のもとで、標準的な学修課程を通じて、司法修習への円滑な橋渡しに向け必要とされる能力を涵養することの難しさも指摘された。
 さらに、刑事手続法教育の重要な課題として、実務家教員と研究者教員との連携が挙げられた。かつて「模擬裁判」の授業に、裁判・検察・弁護の実務家教員に加え、研究者教員が参加していたこと、そして、そのことが、日常的に発生する事件の処理に当たる実務の背後に「理論」があることを自覚させ、その内容が授業の場における教員同士の議論を通じて言語化される契機となっていたこと(それが学生への刺激にもなっていたこと)が、連携の意義として紹介された。

 司法研修所からは、刑事裁判分野を中心に、導入修習について、刑裁教官の報告(話題提供)が行われた。
 冒頭で、導入修習について、分野別実務修習への円滑な移行を図る(分野別実務修習に臨む視点をもってもらう)とともに、自己に不足している知識を自覚させ、自学自修の契機としてもらうため、第68期から実施されることとなった旨の紹介があった後、第69期導入修習における見直しや今後の課題等について説明がなされた。その概要は以下の通りである。
 第68期導入修習は、その実施目的に照らして、事実認定、争点整理等手続面及び刑事訴訟法・実体法の知識という各側面において一定の効果があったと評価できるところであるが、一方で課題も存在している。
 まず、事実認定については、導入修習の期間を通じて事実認定に必要な視点を伝えてきたが、その基本的手法を着実に身につけることができるよう、第69期導入修習では教材やカリキュラムを工夫し、段階的な学修を意識した改善を行っている。
 次いで、争点整理等手続面については、第69期導入修習では、新教材『プラクティス刑事裁判』を必読とするとともに、DVD を作成し、争点整理に対する理解の浸透を図っており、模擬裁判の演習でも争点を意識したコンパクトな尋問を心掛けるようになった、など一定の成果も認められるところである。
 そして、刑事訴訟法・実体法の知識については、演習や起案において用いる事案に織り込まれた実体法・手続法の問題に取り組むことを通じて、自らの知識・理解の不足を自覚してもらうことを期待しており、第 68 期司法修習生のアンケートでは、相当割合の者が、知識不足の自覚を持っているとの結果であったが、本来知識不足に気付いてほしい者のすべてにそのような自覚をもってもらえたか、疑問とする向きもある。実体法の理解が事実認定の出発点であることについては、具体的事件や起案に取り組む中で実感してもらうことが効果的であるが、法科大学院教育の実状も伺いながら、司法修習における指導のあり方について引き続き検討していきたい。また、手続法については、自分の理解を点検できるよう、自学自修用の教材を準備しているところである。

(2)意見交換の概要
 見学した講義や上記報告の内容を踏まえつつ、参加者の自由な発言(質問、問題提起、情報提供)を基に、活発な意見交換が行われた。
 まず、見学した演習で、実体法に関する争点となっていたことから、「共謀」概念についての理解を端緒として、見解に対立のある問題や未だ確立した理解のない問題の取扱い方が議論された。法科大学院、司法研修所のいずれにおいても、例えば、判例(・学説)において、「共謀」概念に対し、なぜ当該理解がとられているのか(一般的には、複数の見解がある場合にそれらは何をめぐって対立しているのか)、また、当該事案において、証拠上、「共謀」を認定できるのかについて、自ら悩み、考える姿勢を重視した教育を行っているが、複数の参加者から、法学部、法科大学院の学生、司法修習生に共通して、問題には正解があることを前提に教員にその教授を求める、いわゆる正解指向が強まっていることに対する懸念が示された。A ならば B という公式をおぼえただけでは、A が A’に変わった場合にどうすべきか対応できない、A の本質を考えることによってはじめて、B という解決が妥当する範囲を画定することができるのであるから、正解指向への対応は重要な課題であるとの指摘もなされた。これに関連して、法科大学院と司法研修所をつなぐ司法試験が、悩むべきところで悩む姿勢を持つ学生を的確に選抜することができる内容の出題となっているかも論点であるとの意見も出された。
 続いて、導入修習に関する司法修習生アンケートの結果を踏まえて、基本的知識の定着度について議論された。その際、例えば、司法修習生にも、正当防衛など重要事項に対する基本的理解が不足している者や、(原供述者に対する証人尋問の請求も含め)書面が伝聞例外として証拠能力を認められるまでの動的過程についての具体的イメージが十分できていない者がいることが指摘された。ただ、法科大学院においては、そうした弱点を意識した教育を行っていることも紹介された。
 さらに、見学した演習が公判前整理手続を経た事件の証人尋問における当事者の活動を実演させるものであったことから、公判前整理手続に対する教育のあり方についての議論も行われた。司法研修所側からは、導入教育で『プラクティス刑事裁判』などを用いて基本を教授し、分野別実務修習で実際の手続を経験してもらった上で、再度基本に立ち返るというサイクルを繰り返す中で理解が深まることを期待しているとの意見があった。法科大学院側からは、そうしたサイクルの出発点として、法律基本科目でも、公判前整理手続をしっかりとりあげるのが望ましいが、授業時間が限られ、また、証拠法に関する理解がある程度進んだ者に対してでないと、同手続の目的や内容を真に理解させることが難しいこと(特に未修者コースの 2 年生には難しい領域であること)、刑事訴訟法について択一式試験が廃止された影響で、公判手続に関する条文に触れる時間が減っていると見られることなどが指摘された。これに対し、実務基礎科目で、『プラクティス刑事裁判』を使用しながら相当回数の授業を公判前整理手続に割いている例も紹介されたが、同時に、同科目を担当する参加者からは、法科大学院教育においてどこまで実践の領域に踏み込むべきかについての悩みも表明された。

3 民事系教員研修における意見交換会の概要

(1)民事系教員研修における意見交換の実施概要
 意見交換会には、各法科大学院から教員10名、法科大学院協会から委員1名および記録係1名、司法研修所から民事裁判教官3名および民事弁護教官3名が参加した(その他、司法研修所からオブザーバー7名が参加した。)。
 冒頭、法科大学院協会の教員研修等委員会の山田八千子委員(中央大学)が挨拶をし、参加者全員が自己紹介をした。その後、同委員の司会で、「司法研修所教育と法科大学院教育との架橋-導入修習との関連で-」というテーマで、意見交換を行った。

(2)意見交換会の内容
 ア 全体的な意見交換に先立って、法科大学院教員2 名(研究者教員1名)及び民事裁判教官 1 名から、それぞれ 10 分程度の報告が行われた。
 まず、法科大学院研究者教員から、「法理論教育と法実務教育との“架橋”から“統合” へ」というテーマで報告がなされ、法科大学院の教育課程は知識と技能と態度が統合された法律家としてのコンピテンス(実践的能力)が修得されるように組み立てられるべきであること、および法理論教育と法実務教育とが「架橋」を超えて「統合」へ向かうべきことが提唱され、この提唱した方法論に基づいて法科大学院の授業で実施されている具体的な取組みを紹介された。
 続いて、法科大学院実務家教員から、当該教員が担当する「民事執行・保全法」の授業をテーマとする報告がされ、当該教員が実施している法科大学院における「民事執行・保全法」の授業の概要や位置づけが紹介され、表面的な知識に拘らずに執行・保全に関する基本構造の理解を重視した授業を展開しており、他方、書式や手続面は司法修習において修得することを想定しているとされた。また、履修者率が近時低下傾向にあることにも言及された。
 最後に、民事裁判教官から、「法科大学院における要件事実教育、事実認定教育の在り方について」というテーマで報告がされた。司法研修所の民事裁判教育において修習生に修得を望む能力として、①主張分析能力、②事実認定能力、③紛争解決能力の3つが挙げられた。そして、司法研修所側は、法科大学院における教育において、要件事実については、典型的な訴訟物や攻撃防御方法を把握し、具体的設例において主張の分析整理をすることができるように基礎的な知識を修得していること、事実認定については、事実認定を検討する前提となる基礎的事項(証拠、書証、自由心証、二段の推定など)を理解していることを、それぞれ求めているとされた。また、資料に基づき、司法研修所における導入教育のカリキュラムの概要の説明がなされた。導入修習の目的は、修習の開始段階で修習生に不足している実務基礎知識・能力に気付かせて自学自修を促し、その後の修習に円滑に移行させることにあることが確認された上、資料に基づき、第68期導入修習の評価の概要が紹介され、当該目的について一定の成果が認められることが紹介された。
       
 イ 以上の報告を受けて、法科大学院教員と司法研修所教官との間で、幅広い多様な論点をめぐり全体的な意見交換が行われた。以下に論点ごとに整理をした上、その概要を記載する。
 ①司法研修所教育全般について
 法科大学院研究者教員から、1)「法理論教育と法実務教育との“架橋”から“統合”へ」というテーマで報告をおこなった法科大学院教員に対し、報告者の法科大学院の授業の実施の取組について、具体的な内容の補足要請、及び、2)民事裁判教官に対し、導入修習を受ける修習生の状況についての質問がなされた。1)の点に対し、報告者の法科大学院教員から、「民事法文書作成の基礎」では、学生が、書式の形式に拘泥するのではなく、事案の解決を検討することができるように、配付資料を工夫しているなどの説明がなされた。2)の点について、民事裁判教官から、導入修習では、法科大学院で要件事実について一定の教育を受けてきたということが前提となっているものの、教育を受けてから一定期間経っていること等が原因で記憶が曖昧になっている者もいるため、法科大学院から実務修習への円滑な移行をサポートし、法科大学院の教育の重要性に気がついてもらうという導入修習の目的に従い、導入修習における指導を行っていると説明された。そして、具体的には、法科大学院での教育で修得した結果の記憶を喚起させた上で、不十分な部分に気づいた場合には修習生自身が補うようにさせるような教育を行っているとされた。また、司法研修所における教育の特徴として、生の事件を加工した教材を利用していることから、臨床という側面では、法科大学院教育よりステップアップしているという点はあるものの、基礎的な知識としての要件事実論の重要性は、法科大学院教育と司法研修所との教育は共通していると説明された。
       
 ②修了生の学習の修得状況のばらつきについて
 法科大学院教員から、導入修習時点における修習生の学習の修得状況のばらつきについての質問があった。これに対し、民事弁護教官から、一定のばらつきがあることを前提として、複数回にわたり「民弁問題研究」の講義を行い、実務修習で最低限の水準を充たすように、内容証明郵便及び事案分析に関する事前課題起案の講評や、訴状・答弁書、主張書面の作成に関する注意事項を教えているとされた。また、一定の時間があり作成にあたり準備ができる事前課題とは異なり、即日起案においては修習生間の能力差がより顕在化することが指摘された上で、こうしたばらつきを自覚させることは、導入修習後に自覚をもって自学自修をさせる契機をつくることになり、自分の能力に不足があることを自覚させるという導入修習の目的にも沿うことになるとされた。また、民事弁護教官から、導入修習での民事弁護科目に特徴的な学修内容として証拠収集活動及び契約があることが紹介された。実務修習・法曹資格取得後の活動への架橋を目指して民事弁護科目を幅広い視点に立って実施していることも説明された。
 法科大学院実務家教員から、民事執行・保全を例に挙げて、修習生の知識・能力のばらつきがあるという認識が述べられた上で、当該教員自身としては、導入修習の段階でばらつきの下の方のレベルを上げることにより結果的にばらつきを少なくできることが望ましいと考えているものの、導入修習の目的が修習生の自分の状況を気づかせる方にウェイトがあるとすれば、下のレベルを上げることでばらつきを少なくすることを導入修習で求めるのは難しいと感じたという意見が述べられた。そして、同教員から、当日の演習で証人尋問の予定時間を定めるやりとりを見学した感想として、反対尋問の時間が主尋問の時間に比して十分に確保されていたとはいえず、必ずしも実務感覚に沿うものとはなっていなかったが、これは集合修習前の実務修習における証人尋問の経験の少なさに起因するのではないかという意見が述べられた。これに対し、民事裁判教官から、実務修習では証人尋問の経験を最低一回はしていると思われるものの、場合によっては、実務修習中に傍聴に適した証人尋問を経験する機会がない修習生もいないわけではなく、民事裁判教官室としては、修習生に対し、指導担当の裁判官以外の裁判官が担当する事件の尋問についても積極的に立ち会うようにするなど、なるべく証人尋問を経験するように指導しているとされた。併せて、集合修習中の演習では、実際の事件を扱う場面とは異なる制約があることも、反対尋問の時間が十分に確保されなかった原因の一つと考えられるとされた。さらに、民事裁判教官から、結果的に導入修習が修習生の底上げにつながっているという側面はあるものの、要件事実に関しては、殆どの者が最低限の理解をしていると考えており、この点では、法科大学院教育で一定の基礎的な教育を行っていただいていると評価できるとされた。ただし、民法の条文や判例についての基礎的な知識を、実際の事件において実務家として使えるのに十分な形で、要件事実として構成できるかについては達成できているとはいえない場合もあるが、実務修習・集合修習に向けて現時点の知識・能力では十分ではないというメッセージを修習生に伝えることが導入修習の目的であるところ、その目的は達成されており、それにより修習生の能力の底上げにもつながっているとの所見が述べられた。
 法科大学院実務家教員から、法科大学院における学生のばらつきの現状について、法科大学院の学生間にも法科大学院間にもばらつきがあることに加えて、法科大学院の個別の各学生についても領域ごとにばらつきがあることが紹介された。ばらつきについては、こうした法科大学院制度における構造的な問題もある以上、その意味で、導入修習がより重要な意義を有しているという認識が示された。また、集合修習では、単に知識のみならず、実務家として備えているべき「態度」についても修得すべきであるという意見が述べられた。
       
 ③民事執行・保全について
 民事弁護教官から、事件数が減少していることなどの原因により、弁護修習において執行・保全事件を見る機会がほとんどなくなっている実情が説明された上で、導入修習では、ビデオを視聴させるなどして執行・保全のカリキュラムを充実させているものの、集合修習においても、民事弁護教官室が望むレベルに達している起案は多くないとの所見が述べられた。また、民事弁護教官から、導入修習のカリキュラムの改訂についての説明もあった。68期の導入修習では、導入修習における執行・保全の講義時間は170分であったが、修習生へのアンケート結果において、法科大学院で執行・保全を履修していない修習生を中心に、執行・保全について十分な理解が得られなかったという回答が多かった。このため、69期の導入修習において、執行・保全の講義時間をさらに50分増加したところ、アンケート結果が改善されたことが報告された。
 執行・保全に関する科目を法科大学院で担当している法科大学院実務家教員から、執行・保全を理解するためには、個別の条文のみならず、関連する複数の法律間の構造を具体的に理解することが重要である、導入修習では時間的な限界があると考えられるから、一定の時間がとれる法科大学院の授業において全体構造を教えて、研修所教育につなげることで、足腰の強い理解につながるのではないかという認識が示された。これに対し、執行・保全に関する科目を法科大学院で担当している法科大学院研究者教員から、民事執行・保全を講義する際のテキストやその利用法についての質問があり、報告者の法科大学院実務家教員から、執行・保全において扱っている領域についての説明があった。
 法科大学院実務家教員から、弁護士会の新入会員研修で執行・保全の講義を担当した際の経験談が披瀝された。当該教員は、新入会員に対して執行・保全の講義をおこなった際、実務的観点から執行・保全の高度な内容を扱ったところ、受講者のアンケート結果からは難しい等の不評であったが、本日、執行・保全についての法科大学院生や修習生の学修の現状を伺い、アンケート結果の背景が理解できたとされた。そして、暗記しただけの知識では実務では数年しか使えないので、法科大学院において執行・保全の基礎的理論をきちんと押さえていくべきであるとの指摘もされた。
 以上の法科大学院教員の意見等に対し、民事裁判教官から、執行・保全に限らず、法科大学院において基礎的なところを理解し、そこから考えていくといった足腰を鍛えるような勉強をするのが大事であり、導入修習で自分に足りない面があることに気付いて法科大学院で学んだ基礎理論に戻って勉強していくといった形で、法科大学院と司法研修所とが連携を取るのが望ましいとの意見が出された。
       
 ④その他
 模擬裁判を担当している法科大学院の実務家教員から、導入修習のプログラム、見学した集合修習のプログラムを踏まえて、事実認定に関する法科大学院教育と研修所教育との適切な分担を考える良い機会であったという感想が述べられた。
 法科大学院教員から、司法研修所における法曹倫理の取扱いについて質問があり、民事弁護教官から、法曹倫理について、法科大学院ですでに学んでいること、実務修習を経た集合修習において法曹倫理を学ぶ方がより効果的であるとの観点から、導入修習では法曹倫理を扱っていないとの説明がされた。
 法科大学院研究者教員から、学生に実務家になる力を付けさせるために、法の原理を理解させることが重要であることが改めて認識できたとされた。また、反対尋問のような、実務的にも理論的にも重要であるような事項について、研究者教員として法科大学院で理論的な教育をすることの重要性を再確認したという感想が示された。
                                                 以上


平成28年6月8日

法科大学院 関係者各位

教員研修のご案内

法科大学院協会
教員研修等検討委員会
主任 山 田 八千子

 法科大学院協会では、昨年度に引き続き、司法修習における集合修習の授業見学及び司法研修所との意見交換を内容とする教員研修を実施します。
 現在、第69期司法修習生は、各地の配属庁における分野別実務修習を受けていますが、東京、大阪及びこれらの周辺の修習地で修習を受けている修習生(A班)は、分野別実務修習終了後に、司法研修所において集合修習を受けることとなっています。集合修習は、実務修習の体験を補完し、司法修習生全員に対して、実務の標準的な知識及び技法の教育を受ける機会を与えるとともに、体系的かつ汎用性のある実務知識及び技法を修得させることを目的として実施されていますが、この集合修習の模様を法科大学院の教員が実地に見学し、司法修習の指導内容等に関する正確な情報を得ることは、極めて意義のあることと考えます。さらに、この機会に、司法修習との有機的な連携を踏まえた法科大学院教育のあり方等に関して、司法研修所教官と法科大学院教員との意見交換の場を設けたいと思います。法科大学院は、プロセスとしての新たな法曹養成の中核を担うべき機関として、将来の法曹にとって必要な実務上の学識及びその応用能力並びに実務の基礎的素養を涵養するため、理論的かつ実践的な教育を行うこととされていますが、今回の意見交換会では、そのような観点から、司法研修所教官との率直な意見交換を行い、その結果を法科大学院に広く還元し、今後の教育に役立てていきたいと考えております。
 以上、司法研修所のご協力を得て、下記の要領で平成28年度の教員研修を実施します。司法修習のカリキュラムの内容は随時変更されてきており、過去に教員研修に参加された方も含めて、会員校の皆様には、奮ってご参加下さいますようご案内申し上げます。

月日: 刑事系教員研修 平成28年9月2日(金)
    民事系教員研修 平成28年9月7日(水)
場所: 司法研修所
    〒351-0194 埼玉県和光市南2丁目3-8
日程(予定):
      集合:13:15
    民事系教員研修:司法研修所本館5階大会議室
    刑事系教員研修:司法研修所本館5階大会議室
    ① 事前説明       13:20~13:35
    ② 演習及び講評見学 13:40~16:35
    ③ 意見交換       16:50~18:30
見学内容(予定)
  (1) 民事系教員研修:「民事共通演習2(弁論準備手続期日)」
修習生を裁判官役、原告訴訟代理人役、被告訴訟代理人役等に分け、弁論準備手続期日における争点整理手続を実演させる。修習生には、主張を整理した上で、主要事実レベルでの争点、重要な間接事実レベルでの争点、それらを立証する人証を明確にすることを求めており、争点整理の結果に基づいて争点の確認などをさせる。その後、教官から、争点整理の解説を行う。
  (2) 刑事系教員研修:「刑事共通演習(尋問)」
修習生を裁判官役、検察官役、弁護人役等に分け、証人尋問及び被告人質問を実演させ、尋問等の結果を踏まえポイントになった事項を指摘する形で論告・弁論を実演させ、その上で裁判官役が争点に関する判断を示す。その後、教官から、尋問において顕れた手続上の問題点、法廷で的確な心証が取れるような争点に即した適切な尋問の在り方等について講評を行う。
意見交換会
  司法研修所の教室のスペース及び実質的な意見交換を実施する趣旨等から、参加人数は民事系・刑事系とも各15名程度とします。もし応募人数がこれを上回った場合には、抽選により決定させていただきます。その際には、可能な限り広く、全国各地の法科大学院の教員の参加を募るという観点を加え、教員研修等検討委員会の責任において、参加者を決定させていただくことを予めお断り申し上げます。
なお参考までにご紹介しますと、昨年度は、民事系では「法科大学院における民事法教育のあり方―導入修習との関連で―」、刑事系では「法科大学院における刑事法教育のあり方―導入修習との関連で―」をテーマに意見交換を実施しました。詳細はこちらを御覧下さい。
参加人数及び研修結果の還元
  司法研修所の教室のスペース及び実質的な意見交換を実施する趣旨等から、参加人数は民事系・刑事系とも各15名程度とします。もし応募人数がこれを上回った場合には、抽選により決定させていただきます。その際には、可能な限り広く、全国各地の法科大学院の教員の参加を募るという観点を加え、教員研修等検討委員会の責任において、参加者を決定させていただくことを予めお断り申し上げます。
民事系教員研修、刑事系教員研修共、公法系科目担当教員等、民事系科目担当教員や刑事系科目担当教員以外の方も積極的にご参加くださいますようお願い致します。教員研修の模様や意見交換会の内容に関する情報については、法科大学院協会ホームページ等で各法科大学院に向けてご報告する予定です。
申込先: 法科大学院協会事務局
    〒103-0025 東京都中央区日本橋茅場町3-9-10
    公益社団法人商事法務研究会内
    電話: 03-5614-5654
  申込方法: メールでお申し込み下さい。
  メール・アドレス: jals@ab.inbox.ne.jp
  記載内容: ① 件名を「教員研修参加申込み」としてください。
    ② 参加申込者の氏名、所属大学院名、希望日、担当科目、研究者教員・実務家教員の別、過去の参加歴を明記して下さい。
    ③ 意見交換会で取り上げるべきテーマを挙げて下さい。
    ④ 申込者の連絡先(電話・メールアドレス)を明記して下さい。なお、メール申し込みを受け付けますと必ず受領の返信が届くはずですが、万一返信がない場合には事務局にお問い合わせ下さい。
申込締切: 平成28年6月27日(月)
参加案内: 参加のご案内は平成28年7月12日(火)頃までを予定しております。ご希望に添えなかった場合もご連絡いたします。

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