「法曹養成制度改革の更なる推進について」に対する意見

平成 27 年 9 月 1 日
「法曹養成制度改革の更なる推進について」に対する意見
法科大学院協会

平成 27 年 6 月 30 日付法曹養成制度改革推進会議決定「法曹養成制度改革の更なる推進について」(以下、「推進会議決定」という)においては、「法科大学院を中核とするプロセスとしての法曹養成制度」の理念を堅持し、その充実を図るべきことが明言されている(推進会議決定・第4及び第6)。法科大学院側では、かねてより、こうした理念を堅持する必要性を強調してきたところであり(※1)、このたび、法曹養成制度改革推進会議が上記のような見識を示したことに対して、心より敬意を表したい。

他方で、推進会議決定は、法曹養成制度の現状について、「法科大学院全体としての司法試験合格率や、弁護士を含む法曹有資格者の活動の場の拡がりなどが、制度創設当初に期待されていた状況と異なるものとなり、法曹志望者の減少を招来する事態に陥っている」との認識を示している。法科大学院協会としても、基本的にこのような現状の認識を共有しており、こうした事態を真摯に受け止め、法科大学院に対する社会の期待に応えられるよう責任を自覚して更に教育の充実を図るとともに、関係諸機関とも緊密な連携・協力に努め、新たな時代に対応した質の高い法曹を多数輩出することに寄与していきたいと考えている。そのことを前提とした上で、推進会議決定が述べるいくつかの重要な点について、以下のとおり、意見及び要望を申し述べる。

第1 法曹有資格者の活動領域の在り方

推進会議決定において言及されている法曹有資格者の活動領域の拡大に向けての関係諸機関のこれまでの取組には、深く敬服するとともに、今後もそうした取組が継続して行われることに、大いに期待する。法科大学院側としても、これまで、法曹有資格者に対する需要の喚起及び需要と供給のマッチングが重要な課題であるとの認識のもと、各法科大学院における企業・公務の領域でのエクスターンシップの実施、法科大学院協会によるエクスターンシップ支援・促進プログラムの提案、法科大学院修了者・法曹有資格者の役割に関する関係機関・団体との意見交換、それらの者の能力や活躍状況の周知を図るための各種パンフレット・冊子の発行等、法曹有資格者の活動領域の拡大に直接・間接につながりうる取組を行ってきたが、今後さらに、関係諸機関と緊密に連携し、活動領域拡大のための各種の取組に協力する必要があると考える。それとともに、法科大学院生あるいは学部学生に対しても、多様な領域において法曹有資格者として活動することの意義・可能性について、広く理解を促す取組を進めていきたい。

第2 今後の法曹人口の在り方

推進会議決定は、新たに養成し輩出される法曹の規模について、「これまで直近でも1,800 人程度の有為な人材が輩出されてきた現状を踏まえ、当面、これより規模が縮小するとしても、1,500 人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め」るべきであるとしている。このように、規模の縮小の可能性に言及されることは、近時の法科大学院の志願者の減少や年度ごとの実入学者数等の状況に鑑みれば、致し方のないところである。他面で、下限として一定の人数が明示されたことは、それ自体としては評価に値する。下限の数値の明示は、法曹を志す者にとって不安感を軽減することになりえ、それがひいては法曹志願者の増加(又は少なくとも減少の歯止め)につながることが期待できるし、また、修了者の司法試験累積合格率の目標が概ね7割と明示されたこと(推進会議決定・第3)とも相まって、法科大学院の適正規模を想定することを可能にすると思われる。

もっとも、推進会議決定において、新たに輩出される法曹の規模の縮小は、当然のこととして要求されているものと理解すべきではない。推進会議決定も述べるように、「社会の法的需要に応えるために、今後もより多くの質の高い法曹が輩出され」る必要があることは否定しがたい。そうであれば、規模の縮小の当否は、慎重に判断されなければならないと思われる。また、規模の縮小がありうるとしても、それはあくまで「当面」のことであり、その後状況が変化すれば、再び法曹人口の拡大を目指すべきである。無論、法科大学院の入学者の質を確保しつつ数を増加させることがその前提となるが、そうした前提状況が整った際には、輩出する規模をまずは現状の水準まで回復させ、さらにはそれ以上に拡大させるのが、法曹養成制度改革の理念に適う施策であるといわなければならない。加えて、(当面の一時的な)縮小の時期と程度についても、推進会議決定は、一義的な要求を提示しているわけではなく、とりわけ、合格者を 1500 人程度にまで縮小させるよう求めているものではないことに留意すべきである。1500 人程度という数字は、あくまで、今後仮に縮小が進められた場合の下限として示されたにとどまる。それゆえ、平成 27 年については、平成 26 年と受験者数がほぼ同数であること(平成 26 年が 8015 人、27 年が 8016 人)などをも考慮すると、少なくとも平成 26 年の合格者数(1810 人)と同程度の合格者数を維持すべきである。そして、その後、直近の1800 人程度の規模からの一定の縮小が仮にあり得るとしても、近年中の急激な縮小は、司法試験受験生に過度に大きな影響を与えるとともに、法曹を志望して法科大学院への
入学を検討する者への萎縮的効果をもたらすものであり、また平成 27 年から司法試験の受験回数の制限が緩和されたことからしても、厳に避けなければならない。

もとより、その前提として、冒頭に述べたように、法科大学院側としても、質・量ともに豊かな法曹を輩出できるように、教育を更に充実させる責任があることはいうまでもない。また、それに加えて、法科大学院で学ぶことや法曹有資格者として社会で活躍することの意義・魅力について、法科大学院側から積極的に発信していかなければならないと考える。

第3 法科大学院

1 法科大学院改革に関する基本的な考え方
推進会議決定においては、平成 30 年度までを法科大学院集中改革期間として、法科大学院の抜本的な組織見直し及び教育の質の向上を図るにあたり、修了生の司法試験累積合格率が概ね7割以上となるような充実した教育を目指すこととされている。司法試験合格率についてこのような具体的な目標値が示されたことは、法科大学院への入学を志願する者及び法科大学院在学生に対して不安感を軽減するものとなりうるし、また、新たに輩出されるべき法曹有資格者の下限の数が示されたこと(推進会議決定・第2)とも相まって、法科大学院の適正規模を想定することを可能にするものとして、有意義である。もっとも、出口の問題としての司法試験合格率のみをいたずらに強調することは、プロセスとしての法科大学院教育の本質を見失わせることにもなりかねないから、その取扱いについては十分な配慮が必要である。

2 具体的方策
(1) 法科大学院の組織見直し
推進会議決定では、公的支援の見直し強化策及び教員派遣見直し方策は、平成 28 年度以降も継続するとされている。しかし、教員派遣の見直し等により、見直し対象となる法科大学院における教育の質が更に低下することは避けるべきであり、見直しの継続実施にあたっては、現に在学する法科大学院生の学修機会を奪うことがないようにするなど、十分な配慮を要望する。

次に、認証評価の厳格化を図るべく「客観的指標」を活用することが述べられ、そのような指標の例として、司法試験合格率や定員充足率、入試競争倍率などが挙げられている。認証評価等において用いられる「指標」は、教育の実質に即したものであるべきだと思われるが、これらの、いわば法科大学院教育の入口と出口における数値という指標だけでは、プロセスとしての法科大学院教育の実質を必ずしも十分に評価し尽くせるわけではないことに留意が必要である。また、とりわけ司法試験合格率については、もしこれが過度に重視されれば、過剰な受験指導を招くなど、各法科大学院の教育に悪影響が及ぶことも懸念される。

推進会議決定では、学校教育法第 15 条に基づく各措置の段階的実施にも言及がなされている。これは、以前の法曹養成制度検討会議(法務省)の審議の過程で取り上げられたような「新たに法的措置を設ける」ものではなく、既存のスキームの枠内で対応を図る趣旨のものと解され、基本的な方向性としては妥当であると思われる。しかし、その運用にあたっては、大学の自主性を不当に損ねることのないよう、慎重かつ適切な配慮がなされることを強く要望する。

(2) 教育の質の向上
推進会議決定が、「法学未修者に対する法律基本科目の単位数増加」を含めて教育課程の抜本的見直し及び学習支援を加速するとしている点は、基本的に賛成できる。法律基本科目の学修に過度に偏る弊害に留意する必要はあるが、法学未修者については、多様なバックグラウンドを持つ者が少なくない一方で、現在の標準的カリキュラムによって十分な学力を修得するのは容易でないことなどに鑑みると、法律基本科目をより重点的に学修させることを可能にする仕組みを検討するのが適切であると思われる。

また、共通到達度確認試験(仮称)について、本格実施を見据えて試行を継続するとともに、試行対象者を順次拡大するとしている点に関しては、試行の結果をも踏まえて、次のような点に十分配慮しながら、確認試験の内容や水準、実施時期等を検討する必要があると考える。即ち、確認試験が、法学未修者から3年の標準修業年限内で段階的に履修をする機会を不当に奪うものにならないようにすること、各法科大学院における教育課程の多様性を阻害しないようにすること、法律基本科目への偏重や断片的知識の獲得の傾向を助長し、多様な科目の学修や理論的・体系的な思考力の修得を妨げることがないようにすること、等である。

(3) 経済的・時間的負担の軽減
法科大学院生の経済的負担を軽減するための施策については、新たな奨学金制度の導入も含め、柔軟でかつ多様な経済的支援の仕組みが更に拡充されることに強く期待する。意欲と能力のある者が経済的事情によって法曹への途を断念する事態を招来しないようにすることは、社会的に強く要請されるところであり、他方、法科大学院を中核とするプロセスとしての法曹養成制度を維持する以上、法科大学院生に対する経済的支援措置が不十分であるために多数の優秀な人材が予備試験を志願せざるを得なくなることがないようにしなければならない。

また、「優秀な学生が学部段階で3年間在学した後に法科大学院の2年の既修者コースに進学できる仕組み」(早期卒業・飛び入学制度の活用)については、一部の法科大学院で既に採用されているが、今後その成果の検証をも踏まえた上で、更に制度の運用の在り方を検討する必要があると思われる。

3 法科大学院集中改革期間の成果の検証等
文部科学省には、以上の1、2に述べたような法科大学院側の意見を十分に考慮し、各法科大学院の自主性に配慮しつつ、分析・検討を進めるよう要望する。

第4 司法試験

1 予備試験
予備試験制度の在り方については、平成 26 年に法科大学院協会から、制度本来の趣旨や理念と現実の利用方法との間に大きなかい離が生じている旨指摘する意見書(※2)を公表したところであり、推進会議決定において、そのような指摘をも踏まえた上で、「法科大学院を中核とするプロセスとしての法曹養成制度の理念」の堅持・尊重という観点から、種々の方策を講じるべきことが述べられている点に対しては、強い賛意を表明したい。推進会議決定は、予備試験が「本来の制度趣旨に沿った機能を果たしている」としながらも、他方、本来の趣旨とかい離した利用の仕方がされ、法曹養成制度の理念を阻害するおそれがあることをも認めたものと解される。

とりわけ、「試験科目の枠にとらわれない多様な学修を実施する法科大学院教育を経ていないことによる弊害が生じるおそれ」に言及している点は、予備試験制度の抱える問題点の一つを的確に言い表したものといえる。そのような弊害の観点からは、予備試験合格と法科大学院修了との同等性等を引き続き検証すべきであるのは当然のことであるが、推進会議決定では、さらに、「予備試験の試験科目の見直し」に言及されてい
ることが注目される。予備試験が試験である以上、法科大学院教育課程のプロセスをそのまま反映するような内容とすることは困難であるとしても、可能な限り、法科大学院修了者と同程度・同内容の学修が行われていることを確認できる試験に改められる必要がある。具体的には、例えば、法律基本科目の試験について、多様な問題の学修成果を確認できるよう、問題数を増やし、様々な能力を問うことができる内容にするとともに、基礎法学・隣接科目分野及び展開・先端科目分野から、新たに試験科目を課すべきであると考える。

また、推進会議決定が述べるような、予備試験の「運用面の改善」、ないし合格判定に当たっての「配慮」を行うことは、予備試験制度が「法科大学院を中核とするプロセスとしての法曹養成制度の理念を損ねることがないよう」にするために、極めて重要である。具体的な「配慮」としては、例えば、予備試験合格者数について、多くとも平成25 年(351 人)、平成 26 年(356 人)の人数を上回ることのないよう、慎重な判断がなされることを強く要望する。

推進会議決定では、さらに、「予備試験の本来の趣旨に沿った者の受験を制約することなく、かつ、予備試験が法曹養成制度の理念を阻害することがないよう、必要な制度的措置を講ずることを検討する」旨述べられている。「法科大学院の集中的改革の進捗状況に合わせて」ではあるが、このように法曹養成制度の理念の阻害を防ぐための「制度的措置」を講ずる必要性にまで踏み込んで言及されたことに対しては、深い敬意を表したい。その上で、具体的に検討対象とされるべき「制度的措置」としては、少なくとも、例えば、学部在学生及び法科大学院在学生の受験資格を制限すること、又はそれに加えて通常法科大学院を修了できる年齢に相当する一定の年齢に満たない者の受験資格を認めないとすること等が含められるよう要望する。

先に触れた意見書でも述べたように、予備試験が極めて例外的な制度であり、法科大学院修了と並ぶもう一つのルートとして司法試験合格の途を開くものではなかったこと、そして、司法試験に合格する能力に到達していれば足りるという発想を転換して、法科大学院における教育を経ることにより、試験では確認することのできない能力を涵養することができるというのが、教育プロセスを重視し、法科大学院制度を導入した根本理念であるということを、ここで改めて確認しておきたい。

2 司法試験選択科目の廃止
推進会議決定では、司法試験論文式試験の選択科目の廃止について、積極・消極双方の考え方を紹介した上で、引き続き是非を検討すると述べるにとどまっている。法律基本科目に限らない幅広い知識・教養をもつ多様な人材の育成という法曹養成の理念に照らせば、選択科目の廃止は必ずしも望ましいことではない。もっとも、法科大学院の教育課程においては、多様な科目履修と厳格な成績評価が制度的に担保されているため、司法試験の受験負担の軽減という観点から選択科目を廃止することも検討に値する。他方、予備試験を経由して司法試験を受験する者については、多様な科目の学修がなされるための制度的担保が存在しない。従って、司法試験から選択科目を廃止するとしても、予備試験において、法科大学院での多様な科目履修に対応するような新たな試験科目(具体的には、基礎法学・隣接科目分野及び展開・先端科目分野からの試験科目)を課することが条件とされるべきである。

3 司法試験の具体的方式・内容、合格基準・合格者決定の在り方
司法試験は、法科大学院教育の内容を踏まえたものとすべきであり、その際には、法学未修者が3年の教育課程を修了する際に習得していることが合理的に期待できる内容・水準が設定される必要がある。司法試験委員会には、司法試験の具体的方式・内容、合格基準等について、今後も、法科大学院の教育内容を踏まえ、受験者に対して過重な負担とならず、かつ、法的知識のみならず、思考力、分析力、表現力等を的確に判定することができるものとするよう、不断の検証を要望したい。そのためには、司法試験の実施から検証、さらに改善までが連関して行われることを可能にするような体制を整備することが重要であると考える。

第5 司法修習

司法修習の内容の更なる充実については、最高裁判所における取組に大いに期待するとともに、法科大学院側としても、法科大学院教育と司法修習との連携のため、必要な協力を行いたいと考える。

第6 今後の検討について

法務省及び文部科学省が、推進会議決定において示された各取組を進めるにあたっては、法科大学院側の意見や取組の状況も十分に考慮されるよう要望する。そのためには、法科大学院側からも、両省に対して、必要な協力を積極的に行っていくべきであると考える。法科大学院を含めた関係者が、単なる情報の提供・交換を行うだけでなく、種々の取組の進捗状況を相互に確認し合い、更に採るべき方策について実質的な討議を行うことのできる体制を構築することが必要であると思われる。

また、推進会議決定において、「社会的状況等を踏まえ、新たな課題に対応」すべく、「法科大学院を中核とするプロセスとしての法曹養成制度の充実を図る抜本的な方策を検討し、必要な措置を講じる」とされている点には、大いに賛成したい。法科大学院協会としても、「有為な人材が法曹を志望し、質・量ともに豊かな法曹が輩出される」ことを切に願っており、そのために必要とされる改革について、関係諸機関と連携・協力しながら真摯に取り組み、社会の期待に応えるよう努める所存である。

※1 法科大学院協会事務局長「『法曹養成制度検討会議・中間的取りまとめ』に対する意見」(平成 25 年)参照。
※2 法科大学院協会「予備試験のあり方に関する意見書」(平成 26 年)参照。

 

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