「法曹養成制度検討会議・中間的取りまとめ」に対する意見の送付について

平成25年5月7日

法務省大臣官房司法法制部司法法制課御中

「法曹養成制度検討会議・中間的取りまとめ」に対する意見の送付について

法科大学院協会事務局長 中山幸二

貴検討会議が、今般取りまとめられた「法曹養成制度検討会議・中間的取りまとめ」について、法科大学院教育を担う立場から、法科大学院協会事務局長として、別紙の通り、意見を述べます。貴検討会議における今後の検討の参考としていただければ幸いです。
なお、本意見に関する連絡は、下記までお願いします。

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法科大学院協会事務局
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「法曹養成制度検討会議・中間的取りまとめ」に対する意見

法科大学院協会事務局長 中山幸二

Ⅰ 法曹養成制度に関する基本的な考え方について

「中間的取りまとめ」においては、法科大学院を法曹養成の中核的な教育機関であると位置づけ、法科大学院の修了をもって司法試験受験資格とする、プロセスとしての法曹養成制度を、今後も堅持する必要性が強調されている。法曹養成制度検討会議(以下、「検討会議」という)が、法曹養成制度を取り巻く厳しい状況を踏まえつつ、このような優れた見識を示されたことに対して深い敬意を表する。と同時に、「中間的取りまとめ」が指摘する課題を真摯に受け止め、法科大学院としても、法科大学院教育の迅速かつより徹底した改善に向けて全力を尽くす必要があることを痛感する。

法科大学院教育に対しては、これまで厳しい批判が寄せられてきたところであるが、法科大学院は、法曹養成に特化した教育課程と双方向・多方向型授業などの教育方法の工夫を通じて、法律学を体系的に学び、問題解決型の思考をはじめとする深い洞察力を身に付けた多くの修了生たちを輩出し、現在、修了生たちは様々な分野で法曹として活躍している。この点に関して、「中間的取りまとめ」が、「学生に物事の本質や判断の分岐点を考えながら学習を積ませるようになるなど、優れた教育がされている例も報告されている」と指摘するなど、法科大学院教育について公正な評価を示していることに感謝したい。

プロセスとしての法曹養成制度は、旧来の制度の下において生じていた様々な課題について、司法制度改革審議会が、慎重な審議を重ねた結果として提言したものである。現在、改革の進度と現実との乖離から様々な問題が生じているが、それに対して、ただ旧制度に復帰するということでは何の解決にもならない。今後のわが国の司法のあるべき姿を鑑みるとき、法の支配を社会のすみずみまで行き渡らすために必要な質・量ともに豊かな法曹を輩出するという理念、及びその実現のための不可欠の手段であるプロセスとしての法曹養成制度は、今後も堅持されるべきであると考える。

しかし、他面において、現在の法曹養成制度が、司法試験合格率の低迷や法科大学院志願者の減少などの問題を抱えていることも否定できない。これらの問題点については、個々の法科大学院による教育改善のみでは十分に対応し切れない面があることから、法曹養成制度全体について、司法制度改革の理念に基づいた、一貫性のある改善策が提示され、それを関係機関が効果的に実施することが求められている。それゆえ、検討会議において示される提言は非常に重要な意義を有しており、以下、「中間的取りまとめ」に対する意見を述べることにより、今後の検討会議の審議に資することを願うとともに、法科大学院教育の改善に向けた強い決意を示すこととしたい。

Ⅱ 「第1 法曹有資格者の活動領域の在り方」

「中間的取りまとめ」においては、法曹有資格者の活動領域の「更なる拡大を図るため、関係機関・団体が連携して、各分野における法曹有資格者のニーズを多角的に分析するとともに、課題や解決策をきめ細かく検討し、拡大に向けた取組を積極的に行う必要がある」と指摘されている。この基本的方針に全面的に賛成であり、法科大学院協会としても積極的に協力をしたい。

その際、法曹有資格者の活動領域の拡大を図るためには、次の2つの点に注意が必要であると考えられる。第一は、法曹有資格者が活動すべき領域を新たに作り出し、法曹有資格者に対する需要を喚起することであり、第二は、需要がある領域に、実際に法曹有資格者が参入していくことができるような制度的工夫を行い、需要と供給のマッチングを図ることである。

第一の需要の喚起については、これまでも、経済関係団体が会員企業に対し法曹有資格者の役割・有用性の周知を行うなど、関係者が積み重ねてきた努力により、企業法務や公務などの分野においても、法曹有資格者が果たすべき役割の重要性に関する認識が広がりつつある。法科大学院協会としても、今後さらに、法曹有資格者ないし法科大学院修了者の果たす役割・有用性が周知されるよう、関係機関と緊密に連携し、積極的に努力したい。

また、司法制度改革審議会意見書が述べる「社会生活上の医師」としての法曹の役割を前提とするならば、さらなる活動領域の拡大に向けた取組みが必要であると考えられる。とりわけ、我が国の法曹有資格者が国際的に活躍する機会はいまだ限られており、海外に展開する企業を法的にサポートする弁護士の輩出が喫緊の課題である。そのためには、法科大学院がこの分野で活躍できる人材の教育を充実する必要があり、関係諸機関が、弁護士の海外展開を推進する仕組みの整備を早急に検討するように要望したい。

他方、需要と供給のマッチングについては、「中間的取りまとめ」において指摘されているように、未だ解決されるべき問題が残っていると認識している。マッチングを強力に進めるためには、何よりもまず、関係諸機関が参画する実施組織を早急に設置する必要があると考える。これまでも、企業法務の分野では、例えば、日本弁護士連合会が修習生に対する就職説明会の開催などを行い、法科大学院協会も、連携するウェブサイトを通じた求人・就職情報の提供に努めてきた。また、公務の領域においては、例えば、各省庁が、法曹有資格者を国家公務員として採用するための説明会を開催したり、各法科大学院が公務領域におけるエクスターンシップを実施するなどしてきたところである。関係機関によるこれらの試みは、高く評価されるべきものであるが、個々の機関の努力に留まり、相互の連携を欠いていた嫌いがある。今後は、関係機関が参画し連携を図る組織を設置して、これまで取組みを更に進めるとともに、あらたな方策を検討し実施する必要がある。その際には、例えば、検討会議の下に置かれている「企業における法曹有資格者の活動領域の拡大に関する意見交換会」及び「地方自治体における法曹有資格者の活動領域の拡大に関する意見交換会」を発展的に改組し,常設のものとすることも検討に値すると考える。

Ⅲ 「第2 今後の法曹人口の在り方」

「中間的取りまとめ」においては、「法曹に対する需要は今後も増加していくことが予想され、このような社会の要請に応えるべく、質・量ともに豊かな法曹を養成するとの理念の下、全体としての法曹人口を引き続き増加させる必要があることに変わりはない」との認識が明確に示されている。司法制度改革の柱の1つである人的基盤の充実について、検討会議がこのような高い見識を示されたことに、司法制度改革の理念に基づいて法曹養成教育を担っている法科大学院として、心から敬意を表したい。

次に、上記の基本的な認識に立ちつつも、「中間的取りまとめ」においては、「現在の法曹養成制度を取り巻く状況に鑑みれば、現時点において、司法試験の年間合格者数を3,000人程度とすることを目指すべきとの数値目標を掲げることは、現実性を欠く」とし、「司法試験の年間合格者数の数値目標は設けないものとすることが相当である」とされている。確かに、司法試験の年間合格者数を3,000人程度とするという目標(以下「3,
000人目標」という。)は、平成22年ころを目途に実現すべき目標として設定されたものであり、平成22年以降、年間合格者が2,000人から2,100人で推移し、法曹有資格者の職域の拡大など、目標の実現に向けて対応すべき課題が残されている現段階において、これを直ちに年間合格者数とすることは、現実的でないかもしれない。

しかし、3,000人目標は、我が国において法の支配をあまねく実現するために、弁護士の地域偏在を解消し、法曹有資格者の職域拡大を行っていく上で、目標となるべき法曹人口の規模を示す役割を担ってきたものであり、司法制度改革における理念的な指標として重要な意義を有するものである。いまこの段階で3,000人目標を下ろすことは、社会に対して誤ったメッセージとなるおそれがあり、法曹を志望する若い世代を萎縮させるとともに、ようやく芽吹きはじめた、法曹の職域拡大を後退させることにもなりかねない。

この点に関連して、「中間的取りまとめ」においては、「将来、司法試験の年間合格者数を3,000人程度とすべきことについて再び現実性が出てくることがあり得ることは否定しない」との認識が示されているが、そうであるならば、より積極的に理念としての方向性を明確に示すことが望ましいように思われる。したがって、3,000人目標については、法科大学院教育をはじめとする法曹養成制度が安定し、法曹有資格者の職域の拡大が進展するなど、種々の条件ないし環境が整った段階で最終的に実現すべき目標として、今後も維持することが適切だと考える。

その場合、当面の間の司法試験の年間合格者数の目標をどうするかが問題となる。この点について、「中間的取りまとめ」においては、「法曹としての質を維持することに留意しつつ、法曹有資格者の活動領域の拡大状況、法曹養成制度の整備状況等を勘案しながら、その都度検討を行う必要がある」とし、当面、このような数値目標を立てることはしないとされている。確かに、法曹養成制度をめぐる状況が流動的である中、明確な数値目標を立てることに困難が伴うことは理解できる。しかし、新たに数値目標が立てられない場合には、現在法科大学院に在籍する学生や法科大学院を志望する者など、これから法曹を志す人達に対し不安を与え、その結果として、優秀な人材を法曹として輩出することに支障を来すことが懸念される。加えて、法科大学院の統廃合や定員削減が強く求められている一方で、司法試験年間合格者数に関する数値目標が明確にならなければ、法科大学院の適正規模を想定することができず、法科大学院による対応に困難が生じかねない。

「中間的取りまとめ」においても、「司法試験合格の見通しを高めて、資質のある多くの者が法科大学院を志願するようになるという観点」が指摘されているところであり、まさにこのような観点から、当面の司法試験年間合格者数について数値目標が設定されるか、あるいは、少なくとも、司法試験における能力判定が適切に行われていることを前提として、現在の年間合格者数を基礎としつつ、状況の変化に対応して、それを調整する基本的な考え方を示す必要があると考える。

Ⅳ 「第3 法曹養成制度の在り方」

1.「1 法曹養成制度の理念と現状 (3) 法曹養成課程における経済的支援」
各法科大学院は、教育の任に当たるものとして、法科大学院生及び修了者の経済的負担ができる限り軽減されることを切に願っている。しかし、厳しい国の財政状況の中、一律的な給付を行うことには限界があり、個々の法科大学院生や司法修習生が置かれている状況を考慮し、真に支援を必要とする者に対して手厚い措置を講じる必要があると認識している。

そのためには、「中間的取りまとめ」において指摘されるように、意欲と能力のある者が、経済的な事情によって法曹への途を断念する事態を招くことがないよう、財政当局をはじめとする関係機関において、さらなる経済的支援措置を検討していただきたい。その際には、法曹志望者に対する経済的支援措置が不十分であるために、優秀な人材が予備試験を志願するという事態を招くことがないようにするとともに、法科大学院在学生と司法修習生との間、あるいは司法修習生相互間でのバランスに注意して、できる限り公正な経済的支援措置となるよう十分に配慮する必要があると考える。

2.「2 法科大学院について」
(1)教育の質の向上、定員・設置数、認証評価
①充実した教育の必要性
法科大学院が、与えられた重要な使命に応えるために、充実した教育を行う必要があるとの指摘については、これを真摯に受け止め、法科大学院協会としても、今後より一層、各法科大学院における教育改善の取組みを支援するように努めたい。

ただ、「中間的取りまとめ」において、法科大学院の教育水準を計る目安として司法試験の合格率に言及し、「約7~8割」という数値が例示されている点については、当面の間の司法試験の合格者数に関する一定の数値目標が示されない限り、これを掲げる意味が希薄であると言わざるをえない。むしろ、それによって、いたずらに司法試験合格率だけが取り上げられることとなり、法科大学院志願者の減少を助長することにもなりかねない。

また、過剰な受験指導を招くなど、各法科大学院の教育にも悪影響が及ぶことが懸念されることから、その取扱いについては、十分な配慮が必要である。

②課題を抱える法科大学院における教育の改善、組織の見直し等
法科大学院の間で、教育内容・水準、及び司法試験その他修了者の進路等の状況等に関して、ばらつきが大きいとの指摘についても、真摯に受け止めたい。「司法試験合格率が低く、入学者数が定員を大きく下回るなど課題を抱える法科大学院」については、教育の質の向上に向けたこれまでの抜本的な取組みの成果を早急に示す必要がある。それができない場合には、教育機関としての責任を深く自覚して、「定員削減や統廃合などの組織見直しを更に促進する必要がある」との指摘を重く受け止めなければならないと考える。

ただ、「中間的取りまとめ」において示されている提言のうち、一定期間内に法科大学院の組織見直しが進まない場合に「新たに法的措置を設けること」が検討課題として掲げられていることについては、大学の自主性を十分に尊重することが必要であり、慎重な審議が行われるよう、強く要望したい。

また、法科大学院への裁判官や検察官等の派遣等の「人的支援の見直し」については、見直しの対象となる法科大学院の教育の質をさらに低下させるおそれが強いことから、その実施に際しては、現に在学する者の教育機会の確保など、慎重な配慮を要望したい。

(2)法学未修者の教育
司法試験の合格率について法学既修者と法学未修者の間に有意な差が存在し、このことが、とりわけ社会人や他学部出身者の法科大学院志願者を減少させる要因となっていることは、「中間的取りまとめ」において指摘されているとおりである。

このような状況を改善するためには、例えば、法学未修者が 3 年の標準年限で受けるべき教育内容・方法の見直しや、法科大学院教育を通じて達成されるべき成果と司法試験の内容・水準の関係等の検討が不可欠である。そのためには、以下のような制度の改善を行うことが必要であるが、それを待つことなく、各法科大学院において、未修者教育の改善に向けた取組みをより一層強化する必要があり、法科大学院協会としても、これを支援するよう努めたい。

①「共通到達度確認試験(仮称)」
「共通到達度確認試験(仮称)」は、法学未修者が最初の 1 年間において学修すべき内容及びその水準を具体的に示すものであり、法学未修者が、自らの到達度を知り、その学習の在り方を省みるための学習指針としても重要な意義を有する。また、必要な学力を備えないまま進級した者が、2 年次以降の学修に適応できないという事態を避けるためにも、一定の効果が期待できることから、その導入に向けた検討を進めることが適当であると考える。

しかし、その設計においては、何よりもまず、法学未修者から、法曹養成のための専門教育を 3 年の標準修業年限内で段階的に履修する機会を不当に奪うことにならないよう十分な配慮が必要である。そのためには、「共通到達度確認試験(仮称)」の対象となる科目、試験の内容及び水準が、法科大学院教育を受けるにふさわしい資質を備えている法学未修者が、通常の学修において達成することが期待できるものでなければならない。また、各法科大学院における教育課程の多様性を考慮する必要があると考える。

なお、各法科大学院は、「共通到達度確認試験(仮称)」の導入を待つまでもなく、1 年次終了段階において期待される到達度を適切に設定し、厳格な成績評価及び進級判定を行う必要があり、法科大学院協会としても、その徹底に努めたい。

②2 年次から 3 年次への進級試験
「中間的取りまとめ」においては、2 年次から 3 年次への進級の際にも、到達度判定の仕組みの導入を検討すべきであるとされている。しかし、2年次から 3年次への進級の段階で、どのような科目について、どの程度の水準の試験を実施することが想定されているのか判然としない。2 年次・3 年次の教育課程は法科大学院ごとに多様であり、法律基本科目のみならず、法律実務基礎科目、基礎法学・隣接科目、展開・先端科目の履修が求められる。

おそらく、このような多様な科目の到達度を判定する客観的な仕組みを構築することは困難であろう。他方、これを法律基本科目の到達度を判定する試験とする場合には、2 年次以降において修得することが期待される分析力、思考力、表現力などの多角的な能力を、客観式試験で判定することは困難である一方、学生における法律基本科目偏重の傾向を助長し、多様な学修を妨げるおそれもある。さらに、進級試験の水準によっては、司法試験の
短答式試験との関係を整理する必要もあることから、その導入の可否・内容については、慎重な検討を要望したい。

③法学未修者の法律基本科目の学修
法学未修者に対する法律基本科目の教育の改善として、既に、1 年次において 6 単位を限度として法律基本科目の単位数を増加させることが可能となっている。

これに対して、2 年次・3 年次における学修については、現在の法科大学院設置基準や各認証評価機関の認証評価基準を前提とする限り、各法科大学院が、法学未修者に履修させる法律基本科目の単位数を増加させることが困難である。したがって、法律基本科目の学修に過度に偏る弊害に留意しつつも、法学未修者については、法学既修者と異なる基準を設けて、法律基本科目をより重点的に学修させることを可能とする制度を検討することが適当であると考える。

なお、その際には、現状において法学未修者の多くが法学部出身者であることについて慎重な評価が必要であるとともに、法曹有資格者の活動領域の拡大が必要とされている中、法科大学院教育において法律基本科目の学修がどの程度の割合を占めるべきかなど、制度全体の設計の在り方を踏まえた検討が必要である。

3.「3 司法試験について」
(1)受験回数制限
「中間的取りまとめ」においては、司法試験の受験回数制限を緩和する可能性について言及されている。しかし、そこで掲げられている緩和の理由については、重大な問題があるように思われる。

第一に、受験回数制限を緩和することになれば、受験者数が増加し、それに対応して合格者数を増加させない限り、必然的に単年度合格率は低下する。これは、「司法試験合格の見通しを高めて、資質のある多くの者が法科大学院を志願するようになる」ことを目指す「中間的取りまとめ」の基本的な考え方と矛盾することになる。

第二に、多くの受験生がより多くの受験回数を希望しているとされるが、合格者数を増加させない限り、受験回数を増やしても、最終的に合格できない者の数は減少せず、なんら救済とならない。むしろ、受験回数制限を緩和することにより、合格までに要する年数が増えるおそれがあり、受験生に対して、さらなる負担を課すことになる。

第三に、受験回数を緩和しても、途中で司法試験の受験を断念する者がいるので、合格率の低下はそれほど大きくない等の指摘があるとされているが、中途断念者が多いのであれば、あえて受験回数を増やす必要性は乏しいはずである。

以上のような問題に加えて、様々な分野において活躍が期待される有為の人材が、時機を逸することなく、その場を見つけていくことが本来望ましいことからも、現行の受験回数制限を堅持すべきであると考える。

(2)方式・内容、合格基準・合格者決定
法科大学院教育と司法試験との連携の在り方や、司法試験受験者の負担軽減については、「中間的取りまとめ」において提案されている方向で、積極的に検討を進めることに賛成する。司法試験は法科大学院教育の内容を踏まえたものとすべきであり、その際には、法学未修者が3年の教育課程を修了する際に習得していることが合理的に期待できる内容・水準が設定される必要がある。そのためには、例示されているような選択科目の取扱い等の検討が進められるべきであり、さらには、試験科目・方式・内容、合格基準・合格者決定の在り方等について、より立ち入った検証と検討が加えられることが期待される。

また、試験科目の問題だけでなく、試験における出題の在り方、合否判定基準の設定などの合格者決定の在り方についても、司法試験と法科大学院教育との連携を図るという観点から、継続的に検証・改善を図る仕組みを設ける必要がある。とりわけ、司法試験の出題・採点者の多くは、通常、各科目を専門とする者であることから、当該科目について、より広くかつ高度な知識を求める傾向にある。しかし、司法試験受験者は試験科目全体について学修する必要があるとともに、個々の専門分野の専門家になることを志望しているわけではない。司法試験は、法曹として活躍する出発点において共通して必要とされる能力を確認するものであって、出題に際しては、このことに十分配慮して、その内容・水準を精査していただきたい。

(3)予備試験制度
司法制度改革審議会意見書が示すように、法科大学院制度の下で予備試験制度が果たすべき役割は、あくまで、経済的事情などにより法科大学院に進学できないか既に実社会で十分な経験を積んでいるため法科大学院を経由するまでの必要がないと認められる者に対して、法曹となる途を確保することにある。このような基本認識からするならば、本来法科大学院に進学し、充実した教育を受けることができ、またそうして然るべき者が、法科
大学院に進学する前に、あるいは法科大学院に進学しながら、予備試験を受験することが可能とする仕組みは、予備試験本来の趣旨に適合しないばかりか、筆記試験偏重の傾向を再燃させるものであって、プロセスとしての法曹養成制度を構築するという司法制度改革そのものの趣旨に根本的に反するものといわざるを得ない。

「中間的取りまとめ」においては、「制度の実施後間もないこと」から、「引き続き推移等について必要なデータの収集を継続して行った上で」、「予備試験制度を見直す必要があるかどうかを検討」するものとしているが、現時点において既に、法科大学院に進学する年齢に未だ達していない法学部生や、法科大学院に現に在学している者が予備試験を受験し、合格者の過半を占めているという事実、及び予備試験合格者こそがエリートであるとの喧伝等により、それらの者をはじめ予備試験の受験者数が増加しているという事態を直視していないものと言わざるをえない。検討会議においても、このような状況を放任することが、法科大学院制度の存続、ひいては司法制度改革における法曹養成制度改革の理念の実現をすら危うくするとの深刻な認識を共有し、適切な措置を講じるよう、すみやかに検討していただきたい。

その際には、予備試験の内容について法科大学院教育を受けた者と同等の能力を有するか否かを判定するにふさわしいものとするための見直しを行うとともに、予備試験の受験資格についても見直しを行うべきであり、例えば、法学部を卒業後ただちに法科大学院に進学した者の多くが法科大学院を修了する年齢である24歳未満(あるいは、多くの者が学部を卒業する年齢である22歳以下)の者、及び現に法科大学院に在学する者に対しては受験資格を認めないこととするなどの措置を検討することが適当である。

4.「4 司法修習について」
プロセスとしての法曹養成制度において、法科大学院教育は、法理論教育、及び実務への導入教育を行い、司法修習は、法科大学院における教育を前提とし、これと連携して、実務教育を行う課程と位置付けられている。当初多少の混乱はあったものの、現在、両者の連携は、おおむね良好だとされているところである。

しかし、修習の開始前後の導入的教育において、その前提となる修習生の知識・能力について、出身の法科大学院によってばらつきがあるとの指摘もある。法科大学院教育と司法修習とを円滑に接続させるためには、こうしたばらつきをなくすことが重要であり、そのためには、法科大学院と司法研修所、実務修習の配属庁及び配属会との間で、より一層緊密な連携関係を構築する必要がある。これまで、法科大学院協会と司法研修所の間で、法科大学院教育と司法修習の連携についてインフォーマルな意見交換を重ねてきたが、それをより十分かつ実効的なものとするために、関係諸機関が参加する協議の場を設けることを検討すべきである。

また、司法修習においては,すべての法曹に共通して必要とされる汎用的能力を修得させると共に、法曹に対する多様化する社会的ニーズに応える多様な能力の涵養も目指されている。後者の要請は、とりわけ選択型実務修習の課題とされてきているが、法曹に対する社会的ニーズの多様化に応えることができるように研修内容を検討し、「中間的取りまとめ」において指摘されるように、より多様な分野について知識、技能を修得する機会(企業法務の分野に進む者のための研修、公務分野に職を求める者のための研修、国際的なビジネス分野での仕事を望む者のための研修等)を設ける必要がある。

なお、新人法曹の能力を向上させるためには、司法修習を「実務に即した教育を行う課程として、より密度の濃いものとするための工夫」が検討されるべきであるが、それにより、司法修習の期間が延長されたり、また指導する者の数や施設の収容能力など、司法修習の実施に関する事情を理由として、司法試験の合格者数に制限がかかったりすることのないように、注意が必要である。

5.「5 継続教育について」
「中間的取りまとめ」において、「法科大学院においても、法曹資格取得後の継続教育について、必要な協力を行うことを検討すべきである」との指摘がなされているが、今後、法曹人口を増加させ、その活動領域を拡大していくうえで、非常に重要な指摘であると考える。とりわけ、新人法曹の継続教育は、法科大学院修了者の能力をさらに高め、その活躍の舞台を広げることに繋がることから、法科大学院としても積極的に対応する必要がある。

その際には、実務に携わる初期の段階で必要となる知識・技能の向上を目的とするものから、法曹が先端的分野等で活躍する際に必要となる知識・技能の習得を目指すものまで、多様な継続教育が考えられることから、法科大学院協会としても、個々の法科大学院の多様性を活かすことができるような対応を検討していくこととしたい。

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