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法科大学院ってどんなところでしたか?
法科大学院生に聞く

東京地方裁判所判事補(インタビュー当時、中央大学法科大学院3年生[既修入学]) 金子茉由
聞き手:中央大学法科大学院教授 大貫裕之

政治学科から法科大学院へ検察官の講演に感銘を受けて

 大貫 金子さんが法科大学院に入ろうと思った動機やきっかけは何だったのですか? どうやって法科大学院入試のための勉強をしたんですか?
 金子 私は、慶応大学法学部卒業なのですが、法律学科ではなく政治学科に所属していたため、法律学の授業を受ける機会はほとんどなく、当初は法律家を目指そうなどとは全く思っていませんでした。が、大学2年生のとき、検察官の講演会を聴いて感銘を受け、検察官になりたいと思い、司法試験を目指そうと決めました。いざ勉強しようと思っても、周りに法律家を目指す友人がおらずどうやって勉強したらよいのか全く分からなかったので、予備校に通って、法科大学院入試の対策をしました。

バリエーション豊かな講義から自分の興味に即して選択できる
プロの仕事をじかに知るチャンスも豊富

 大貫 予備校とは不穏なことを言われますね(笑)。実際に法科大学院に入学して、授業はいかがでしたか? 予想していたものとちがいましたか?
 金子 憲法、行政法、民法などの司法試験7科目はもちろんのこと、民事訴訟実務の基礎、刑事訴訟実務の基礎のような、実務を見据えた授業もあります。また、実務的、先端的な分野を扱う授業が多く開講されているので、自分の興味に即した授業を選択することができます。たとえば、企業法務、エンターテイメントやスポーツにおける法務を学ぶ科目、医療と法とのかかわりを学ぶ科目、法整備支援論などの授業があります。
 大貫 印象に残っている授業をいくつか挙げてもらえますか?
 金子 「民事訴訟実務の基礎」という授業では、主に要件事実について学びました。たとえば、貸したお金を返してもらいたい人は、訴訟でどんな事実(これを要件事実と言います)を主張立証すればよいのか、それに対して、借主はどんな反論をすればいいのかというようなことを、民法と民事訴訟法の理解を前提に、勉強していきます。授業では、要件事実の理解を試すため、訴状を起案したりもしました。
 大貫 法科大学院の授業には、法学部での授業とはちょっとちがって、実務で仕事をすることを強く意識した授業があることが、一つの特徴ですね。
 金子 「法整備支援論」の授業は、国際協力機構JICAに出向している弁護士の方が担当の授業で、発展途上国の法律案の起草に対してどんなアドバイスをするか、司法制度の改善のためにどんなプロジェクトを組んだらよいか、といったことを検討しました。国際協力といえばインフラ整備といったイメージがあったのですが、法律家として国際貢献する途もあるのだということを知り、視野が広がりました。
 大貫 そんな授業もあるんですね。おもしろそうですね。通常の授業の他に、特別授業のようなものは何か受けましたか?
 金子 課外授業としては「エクスターンシップ」というものもありました。これは長期休暇中に弁護士事務所、企業の法務部、官庁などで三週間ほど研修を行うというものです。私は、弁護士事務所で研修をさせていただき、法律相談に同席したり、訴状や弁論要旨などの法文書を作成したり、裁判を傍聴したりしました。弁護士の仕事に三週間密着することで、いかに盤石な基本的知識が大切かを痛感したし、モチベーションが非常に高まりました。
 大貫 実際に仕事している人たちを見ると、一気にモチベーションが高まりますよね。弁護士事務所や法務部の他に、法律専門家の仕事を知る機会はありましたか?
 金子 お昼休みの時間帯や授業終了後に、実務家の講演会や省庁訪問などの様々なイベントが企画されています。お昼休みに昼ご飯をとりながら、短い講演を聴く、「ランチ・アンドトーク」というユニークな企画もありました。最近では行政不服審査法の改正についての解説がありました。退官された最高裁判事の講演なんかもありました。また、授業終了後に検察庁を訪問し、検察官の職務内容ややりがいについてお話を聞いたり、庁舎内を見学したり、懇親会をしたりしました。他にも、金融庁、公正取引委員会、外務省などを訪問して、法曹資格を持つ方が国家公務員としてどんな仕事をしているのかについて、直にお話を伺うことができます。

予習がたいへんな双方向型授業
でも得られるものは大きい

 大貫 普段の講義がどのように行われているのか、少し詳しく教えてもらえますか?
 金子 憲法や民法など法律基本科目の場合は、基本的には、課題が事前に与えられるのでそれを予習し、授業でその課題の解答を検討します。先生から指名された生徒が答えるという双方向型の授業です。
 大貫 「双方向型授業」というのは、どんな感じなんですか?
 金子 大学の授業は、教授が一方的に講義をするというものが多かったのですが、法科大学院では、そういう授業は少ないです。先生から指名された生徒が発言して、それに対して先生がフォローをしたり、他の生徒が反論をしたりします。課題の設問以外のことについても、指名されて発言することもあります。
 大貫 そういう授業だと、授業中、気を抜けないんじゃないですか? 緊張するでしょう。ついていけないとか、上手く参加できないとかいう不安もあるんじゃないんですか?
 金子 たしかに、最初はとても緊張したし、頓珍漢なことを言ったら恥ずかしいなと思っていました。でも、みんな間違えて当たり前なので、全然恥じることはないのだと気づきました。間違えたことは一生忘れないし、間違えたところはその周辺も含めてしっかり勉強しようと思うようになります。それに、将来は公開の法廷で弁論する立場になるのだから、今のうちに授業でいっぱい間違えて緊張や恥ずかしさに慣れておくのも大事なのだろうなと思っています。
 大貫先生の講義では、そんなこと依頼者に言ったら誰も相談に来なくなるよ、なんて言われたこともありますね(笑)。でも先生は、いつもみんなが理解していることを気にされて「大丈夫なの? ほんとに大丈夫なの?」ととても配慮してくれていました。
 大貫 そういうことは、授業評価アンケートに書いてください(笑)。ちなみに、法科大学院には授業評価アンケートというものがあって、講義の後に、その講義に対する感想や要望を書くことができます。中大ローは、講義の中間点で、感想・要望を述べる中間アンケートというものもあります。

予習と復習に追われる毎日自主ゼミが新鮮「考える勉強」が身についた

 大貫 法科大学院の授業は、学生本人が予習も復習もしっかりやることが前提なわけですが、毎日の勉強はどんな感じですか? たいへんですか?
 金子 一般的にいえば大学院生は暇なイメージがありますが、法科大学院生はやはり違います。周りのみんなもしっかり勉強しているので、必然的に、自分もやらなきゃ、と思える環境だといえます。
 既習1年目(法科大学院には既習コース〔2年〕と未習コース〔3年〕があり、既習コースの人は2年からはじめるので、既習1年とは2年生のことである。大貫注)は、予習が結構大変でした。しかし、予習をきちんとやって分からないところを明確にしてから授業に出ないと、授業はほぼ無駄になるので、予習をサボるということはなるべくしないようにしました。復習もばっちりやるというのは正直挫折しましたが、予習時点で分からなかったところを見返したりはしていました。
 大貫 そうすると、だいたいは一人で黙々と勉強しているんですか?
 金子 もちろん一人で黙々勉強する時間もたくさんあります。それだけではなくて、友達と4人で自主的にゼミを組んで、問題集を解いたり、司法試験の過去問を解いたりしています。
 友達と議論するためには、相手が何を言っているのかを理解した上で、自分の言いたいことを相手に分かるように伝えなければいけないので、一人で黙々と勉強するだけでは得られないような力がつくように思います。私は学部時代、友達と法律を議論するという経験をしたことがなかったので、自主ゼミはとても新鮮でした。
 また、教授との距離が近いことも法科大学院のとてもよいところです。一流の学者・実務家の先生方に気軽に質問できる環境は法科大学院ならではだと思います。一人で長時間悩むよりも先生に聞いた方が得られるものが大きいので、どんな些細なことでも質問するようにしています。生徒想いの先生ばかりで、どんなに稚拙な質問にも丁寧に対応してくれます。ときには、先生が自主ゼミに数時間付き添ってくださることもあります。
 判例百選にも掲載されているような著名な事件を担当された実務家の方から、当時どんなことを考え、どんなことに苦労したか等、事件の裏話をうかがう機会も多くありました。百選にさらっと紹介されている「事案の概要」の裏には、当事者の利益のために頭を悩ます関係者の熱意と苦労があること、一つひとつの判例が「生きた判例」であることを意識させられました。
 こうやって日々授業を受けたり、友達と議論したり、先生に質問したりすることを通じて、だんだんと「考える勉強」というのがどういうものなのか分かってきて、法律の勉強が今はとても楽しくなりました。法科大学院に入る前に通っていた予備校では暗記ばかりで正直面白くありませんでしたが、ローに入り、法律は覚えるものではなくて根本から考えなきゃだめなんだと痛感し、はじめて法律学がおもしろいと感じるようになりました。
 大貫 予備校に比べての法科大学院の勉強の良さを言ってもらえてよかったです(笑)。

刺激し合い、ともに勉強する
仲間と親身な教員がいることが法科大学院の一番のメリット

 大貫 では最後に法科大学院で勉強することで得られるメリットは何だと思いますか?もちろん司法試験に合格できることがまずはメリットでしょうけれど。
 金子 たしかに、法科大学院は法律を勉強する場所ではあるのですが、それだけではなく、法科大学院の授業や実務家の先生とのお話を通して、法律家になるということがどういうことなのか、どういう意識を持たなければならないのかといった、倫理観や心構えのようなものについても、明確に意識するようになりました。勉強以外の、もっと根本的な法律家になる人として持つべき意識、態度、責任感を明確に意識させられたことは、法科大学院生活での一つの大きな収穫だと思います。
 そして、なんといっても、同じところを目指して頑張っている友人が常に周りにいるという環境そのものが、法科大学院の一番のメリットだと思います。自主ゼミを組んだり、分からないことを教え合ったり、飲み会をいっぱいしたりして、毎日一緒に過ごすことになるので、本当に仲良くなります。友達が良い成績をもらったり、自習室で遅くまで勉強している姿を見て、自分も頑張らなきゃと良い刺激も受けます。また、将来どんな法律家になりたいかビジョンを明確にしている人も多いため、尊敬できる友達がたくさんいます。こういう法科大学院でできた人脈は、実務に出て大きな強みになると聞いています。私が、法科大学院に入ってよかったことはなんですかと聞かれて真っ先に頭に浮かぶのは、バシバシ議論できる友人がたくさんできたことです。
 大貫 法科大学院生の生の声が聴けました。どうもありがとうございました。
(本稿は、2014年10月25日に明治大学で行われた「今、なぜロースクールで学ぶのか☆列島縦断リレー☆法科大学院がわかる会」〔主催:法科大学院協会〕でのインタビューを編集したものです。)

(法学セミナー2015年5月号24-26頁に掲載したものを転載)

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