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被災地ボランティア・現地調査エクスターンシップ実施報告書

法科大学院協会事務局長

中山幸二

 

 今夏、法科大学院協会と日弁連の共同企画により、仙台弁護士会・震災復興支援委員会の協力を得て、法科大学院生の被災地支援ボランティアとして現地調査エクスターンシップを試みた。全国の法科大学院から参加者を募り、宮城県内の被災地に赴き、弁護士とともに避難所や仮設住宅に仮住まいする被災者の方々のヒアリング等を行うという企画である。

 仙台弁護士会では、震災直後から精力的に被災者の法律相談や復興に向けた提言活動を行っているが、震災から5ヶ月たった時点で、改めて被災者の現状を把握するため、県内全域の避難所や仮設住宅での現地調査を計画していた。そこで、法科大学院生を弁護士の現地調査に同行させてもらい、主にその補助活動をすることとなった。現場で被災者の抱える生活ニーズや法律問題を吸い上げ、行政に仲介し、まちづくり提言を行い、さらには必要があれば新たな立法に繋げるといった一連の弁護士会の活動につき、その一端の基礎資料を集める手伝いをしながら、極限状況における法律の機能と限界、新たな法形成の生成過程を認識し、そこでの法曹の役割を学ぼうとしたものである。

 このような企画はもちろん初めての試みであり、企画と準備、募集と連絡、事前講習と現地集合、班割と派遣、各日の活動と報告、事後の総括、それぞれが試行錯誤の連続であり、予測不能と準備不足は否めない。それにもかかわらず、参加した学生は、集合前から自主的にネットワークを構築し、緊密な情報交換を行い、現地でも相互に連携協力するとともに切磋琢磨し、被災地の惨状に衝撃を受けつつも現実を受け止め、短期間で大きく成長した。幸いにして、仙台弁護士会の方々の温かい指導に与り、法曹像についても多くのことを考え、多くのものを学んだに違いない。

 以下に、企画と活動の概要を紹介し、法曹養成に関与する方々の参考に供したい。

1 主体
 法科大学院協会・日本弁護士連合会の共同企画
 協力(学生の受入れと指導):仙台弁護士会・震災復興支援委員会

2 目的
 法科大学院生が、仙台弁護士会と共同して被災者の法的ニーズ調査を行うとともに、復興支援委員会の講習指導を受けることによって、被災地の現状と法律問題を把握し、社会に必要とされる法曹としてのマインドを修得する。

3 期間
 2011年8月22日~25日。

4 参加人員
 30人(九州・広島・神戸・大阪・関西学院・立命館・早稲田・明治・中央・上智・創価・白鴎の法科大学院生29名、協会事務局長1名)

5 研修の概要
 ・事前講習:震災下の法律相談の留意点を示した日弁連研修DVDを視聴。
 ・ガイダンス:現地にて、今回の企画の目的、支援活動の心構え、震災法律
 相談の特徴、震災関連立法の動向等を説明。
 ・班に分かれて、弁護士とともに避難所でのニーズ調査を実施。
 ・相互の情報交換と情報提供の機会を設定(メール配信とIT掲示版を活用)。
 ・検討会と反省会:震災ADRの役割、現地からの立法提言の動き等を講義。
 ・研修終了後、所属法科大学院に報告。

6 宿泊先
 アークホテル仙台:仙台市青葉区大町2-2-10

7 費用負担
 法科大学院生の旅費・宿泊費は自己負担(宿泊費は協会で一部補助)。
 現地の移動費用(バス・フェリー)は協会負担。

8 保険
 傷害保険、賠償責任保険の付保を各法科大学院で確認(法科賠または学賠保)。

9 現地連絡先
 法科大学院協会事務局長・中山幸二:携帯電話(番号省略)
 仙台弁護士会:仙台市青葉区一番町-2-9-18 ℡:(番号省略)

10 学生の緊急連絡先
 各学生から届け出た緊急連絡先を協会事務局と所属法科大学院が保管。

11 現地調査と研修活動の概要 
  開始式:8月22日(月)9時30分 仙台弁護士会館4階大会議室
  (1)  仙台弁護士会・森山博会長挨拶
  (2)  日本弁護士連合会・新里宏二副会長挨拶
  (3)  法科大学院協会・中山幸二事務局長挨拶と注意事項
  (4)  仙台弁護士会復興支援委員会・及川雄介弁護士の訓話

○現地調査[期日:調査場所:住居態様:担当弁護士名:法科大学院生]
(各班とも担当弁護士が車を出し学生を乗車させ移動中も指導いただいた。)
(弁護士名・敬称略)

 8月22日(月):
  石巻市・港南:避難所:佐々木フミ子:2名(金谷・町永)
  石巻市・港南:避難所:伊藤敬文:3名(近内・中川嵩・佐藤)
  南三陸町・志津川:仮設:野呂圭・庄司智弥:3名(中嶋・板井・杉田峻)
  東松島市・鳴瀬:仮設:佐々木好志:3名(添田・三井・雨宮)
  東松島市鳴瀬:仮設:大久保さやか:3名(日野・保苅・中川裕)
  山元町:仮設住宅:菅野淳一:3名(石川・加々美・篠原)
  山元町:仮設住宅:及川雄介:4名(青木・木村・齋藤・南)
  山元町:仮設住宅:篠塚功照:4名(奥田・坂本・西原・高山)
  仙台市・あすと長町:仮設:山田いずみ(タクシー):2名(藤間・木原)
  気仙沼市・旧気仙沼:避難所:宇都彰浩:2名(松岡・杉田悠)

 8月23日(火)
  気仙沼市・大島:視察:佐々木好志・野呂圭:中山バス引率23名
  山元町:仮設住宅:畠山祐太:2名(中嶋・金谷)
  山元町:仮設住宅:中村紘章:2名(町永・中川嵩)
  山元町:仮設住宅:村上匠:2名(佐藤・杉田悠)
  仙台市・あすと長町:仮設:安本裕典:1名(杉田峻)

 8月24日(水)
  登米市:仮設住宅:廣瀬公慈・伊藤薫徳:3名(南・木原・保苅)
  石巻市:視察:鎌田健司:6名(板井・木村・杉田悠・坂本・齋藤・中川嵩)
  石巻市:視察:佐藤康浩:6名(青木・町永・西原・雨宮・加々美・中川裕)
  石巻市:自宅:及川雄介:4名(杉田峻・日野・中嶋・近内)
  仙台市・扇町:仮設住宅:工藤芳明(タクシー):3名(三井・金谷・篠原)
  仙台市・ニッぺリア:仮設:内田正之:4名(松岡・石川・高山・添田)
  仙台市・ニッぺリア:仮設:篠塚功照:3名(奥田・藤間・佐藤)

 8月25日(木)
  10時:法テラス仙台:見学と説明:林田裕之事務局長
  11時:東北大学法科大学院:佐藤隆之院長の講話・渡辺図書館司書の説明。
  13時より17時半まで、仙台弁護士会にて研修会
  (1)  仙台弁護士会・会長挨拶(森山博会長)
  (2)  仙台弁護士会の提言・意見書について(工藤芳明・震災復興支援委員会提言部会部会長)
  (3)  仙台弁護士会法律相談Q&Aについて(神坪浩喜・震災復興支援委員会バックアップ部会部会長
  (4)  仙台弁護士会の活動経過(中谷聡副会長)
  (5)  被災地高齢者障害者へのケアについて(大橋洋介・震災復興支援委員会委員,高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長)
  18時より打上げ懇親会(仙台弁護士会執行部主催)

12 若干の所感

 全国から集まった初顔合せの法科大学院生が一体となって、被災地の現地調査と研修会に真剣に取り組んでくれた。被災者の声に耳を傾け、少しでも被災者の心がなごみ、幾許かでも被災者支援になればとの思いは、みな共通していた。短い期間ではあったが、学生たちが、大学の枠を超えて、相互に刺激し合い、協力し、切磋琢磨する機会を得たことは最大の収穫であった。現地調査に引率し指導に当たった弁護士にとっても、次世代の法曹志願者たちに自らの志と法曹の魂を伝授する機会を得たことが、明日への気力を養う刺激になったとの声を聴く。この法曹の精神の受け継ぎが、将来に実を結ぶものと信ずる。

 参加した学生たちは、帰宅後も相互に連絡を取り、情報交換と切磋琢磨を続けている。被災地の実情を伝え、支援を促す活動も続いている。被災地ボランティアの体験に基づき、同僚の法科大学院生を集めパワーポイントを使って報告会を開催した者もあれば、法科大学院教授会で被災地の現状につき報告を行った者もある。新聞や法曹ネット等に投稿した者もある。今回の活動につき、自主的に総括報告書を届けてきた者も多く、中には被災地の状況を端的に伝える写真とともに16頁に及ぶ報告書を作成した者もいる。いずれも、貴重な現地調査の記録とそれぞれに受け止めた現実への思いが綴られており、永遠の財産となるであろう。今後さらに研鑽を積み、真に社会に必要とされる法曹に育つことを期待したい。

 最後に、仙台弁護士会の皆さまには、震災下の厳しい状況下にもかかわらず、温かいご指導をいただき、心より感謝申し上げたい。

 

<ご参考> 参加法科大学院生の感想(一例)
――日弁連・法曹養成対策室メールマガジン10月17日号に掲載――

「被災地ボランティアに参加して得たもの」

木原 浩(明治法科大学院2年)

――木造建物が1階部分をえぐられた形で残っていた。倒壊して瓦礫となった建物が撤去された跡であろう更地があちこちにあった。港の倉庫の中をのぞくと、津波で建物内に押し流された自動車が逆立ちするかたちで壁に寄りかかっている。

 2011年8月22日から25日まで法科大学院協会・日本弁護士連合会の共同企画「被災地支援のための法的ニーズ調査」のボランティア活動(以下、「被災地ボランティア」)に参加して訪れた気仙沼市で見た光景である。

 この企画は、仙台弁護士会が東日本大震災から5か月の時点であらためて被災者の法的ニーズをつかもうと、宮城県の避難所・仮設住宅などで行ったヒアリング調査(聞き取り調査)に法科大学院生が同行して、調査の補助(メモをとる等)を行うことによって、法科大学院生が「被災地の現状と法律問題を把握し、社会に必要とされる法曹としてのマインドを修得する」というものであった。

 全国の12の法科大学院から29名の学生が参加した。参加した法科大学院生は、班ごとに分わかれ、仙台市・石巻市・気仙沼市などの各所で仙台弁護士会の弁護士の先生が行うヒアリングに同行して、被災者や行政の方たちからお話をうかがい、現地の状況を視察した。

 活動第1日目、広島から夜行バスを乗り継ぎ早朝5時に仙台に着き、そのまま7時に気仙沼市の避難所へのヒアリングに出発した法科大学院生や、ヒアリングから戻るのが夜24時を回った法科大学院生もいた。宿泊したホテルのロビーでは、その日のうちにヒアリングした被災者の声を報告書にまとめようと、班ごとに集まり、作業をする姿が深夜まで見られた。ヒアリング・視察した場所は、全体で延べ15か所となった。

 私は、仙台弁護士会の弁護士の先生方に同行して仙台市・登米市の仮設住宅でのヒアリングに参加した。

 ヒアリングでは、被災者の方が抱えていらっしゃる現実を前に、無力感を感じることもしばしばだった。南相馬市から原発事故で避難されてきた方は「いつ、南相馬に帰れるのか」と問いかけられたが、答えるすべをもたなかった。

 孫の親権や奨学金についての相談をされた被災者の方は、その孫の両親つまり被災者の子である方が亡くなったことには最後までふれずにお話を終えられた。ヒアリングで、肉親が亡くなったことをお話にならない被災者の方が多かったように思う。なかには「話しても、なんにも解決しないから」と、何もおっしゃらない被災者の方もいらっしゃった。「なにも解決しない」という言葉の向こうにある、被災者の方が失われたものの大きさを想像して、こちらも胸が塞がれる思いがした。

 そんな被災者の方が「仮設住宅に空き部屋があるから、泊まっていきなさよ」とおしゃってくださり、被災者の方の優しさに、逆にこちらが励まされることが多かった。

 また、どう解決したらよいか、単純に「こうだ」と言えない問題もあった。津波で被害を受けた沿岸部の住民に内陸への集団移転を促す行政の方針に対し、被災者の間でも意見・対応が分かれるというお話を聞かせてくださった方もいらっしゃった。

 地域をどう復興していくのか。単純には結論がでない多くの課題があることを感じた。被災地ボランティアの最終日、仙台弁護士会が行っている支援活動について仙台弁護士会の災害復興支援特別委員会の弁護士の先生方から講話を受けたが、そのなかで、弁護士の先生が「復興とはなにか」を問われた。立場によって復興の考え方が異なり、非常に考えさせられるテーマだった。

 一方で、ヒアリングのなかで法律相談のニーズも多くでた。「土地の権利書が津波で流された」「津波で身内が亡くなり、負債を相続することになる。相続放棄をしようか迷っている」、二重ローンの相談などのほか、仮設住宅の不備、仕事の問題など。次々と相談が寄せられ、2時間のヒアリングが実質的には、ほとんど法律相談になるという事態になる仮設住宅があった。その仮設住宅の開設後、弁護士が訪れたのは初めてだったと考えられるが、被災者の方々は弁護士の支援を待っていたのだ、と思った。

 仙台弁護士会は、こうしたヒアリングや法律相談から得た被災者のニーズを踏まえ、立法提言などを行っているが、弁護士が果たす役割を、あらためて感じさせられる体験だった。

 今回、被災地ボランティアで私が得たと感じるものは多いが、そのなかで3つあげる。

 1つは、被災者の方の生の声を聞けた体験それ自体が貴重だったということである。被災者の方からお話をお聞きし、それに対し即、役立つ行動ができないもどかしさを感じるときもあった。しかし、そのもどかしさの体験を含め、非常に大きな経験をさせていただいたといえる。

 2つめは、被災者支援をされる弁護士の先生方の姿を見、その指導を受けることができたことである。

 ヒアリングのとき、もっとも感銘を受けたのは、屋外でベンチに腰掛けた被災者の方にお話をうかがうため、弁護士の先生が瞬時に地面にしゃがまれたことだ。被災者の方の目線より下の位置に聞き手がくるようにするためだったが、非常に印象的だった。

 ヒアリングや視察の途上で弁護士の先生方が話してくださる支援活動のお話や、最終日の仙台弁護士会での講話を通じて、仙台弁護士会の先生方からは多くのものを学んだ。

 弁護士が果たすべき役割、災害支援・復興における法的問題など、多くのことを考えさせられるとともに、法律を基礎から学ぶこと、法的思考力をしっかり身につける必要性を痛感させられた。

 3つめは、全国の法科大学院から参加した29名の仲間ができたことである。終了後も、インターネットを活用して情報交換が続いている。29名全員が、今回の企画の目的である「社会に必要とされる法曹としてのマインド」をもった法律家になることを目指して、がんばっていると思う。

 最後に、今回、被災者のニーズ、被災者支援の法的問題、法曹の役割を実際に学ぶ機会を与えてくださった法科大学院協会及び日本弁護士連合会、現地でお世話になった仙台弁護士会の先生方に感謝を申し上げたい。

[付記]

 このほか、法曹養成対策室メールマガジン11月号にも、法科大学院生5名の活動報告を掲載しました。また、『ロースクール研究 No.18』(2011年12月1日号)126頁~130頁に、法科大学院協会事務局長名で「被災地法律支援ボランティアの活動報告」と題して、今回の企画と法科大学院生の報告書の一部を紹介させていただきました。

 法科大学院協会事務局長・中山幸二

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