平成24年度教員研修の報告

平成24年12月15日 
教員研修等検討委員会

【はじめに】 

 法科大学院協会教員研修等検討委員会は、平成24年度教員研修を、民事系教員研修については平成24年8月23日に、刑事系教員研修については同年9月11日に、いずれも司法研修所において実施した。教員研修では、司法研修所における司法修習を見学するとともに、法科大学院教員と司法研修所教官との間の意見交換を行った。教員研修への参加者は人数が限られることから、とりわけ意見交換会の内容を各法科大学院に伝達し、多くの法科大学院教員が情報を共有することが有益であると考え、以下、意見交換会の概要を中心に報告する。 
 なお、参考までに、文末に、本年度教員研修の案内文を掲げた。

1 平成24年度教員研修の実施

(1) 民事系教員研修には、各法科大学院からの参加申込み者15名と、法科大学院協会から2名(記録係1名を含む。)の合計17名が参加した。研修は、平成24年8月23日に実施され、まずは、事前説明の後、13時40分より16時35分まで、参加者を5組に分けて、それぞれ1クラスの集合修習における「民事共通演習2」を見学した。「民事共通演習2」は、修習生を裁判官役、原告訴訟代理人役、被告訴訟代理人役等に分け、弁論準備手続期日における争点整理手続を実演させ、教官から、その講評を行うものであった。次いで、集合修習見学の後、16時50分より18時30分まで、意見交換会が実施された。
(2) 刑事系教員研修には、各法科大学院からの参加申込み者14名と、法科大学院協会から2名(記録係1名を含む。)の合計16名が参加した。研修は、平成23年9月11日に実施され、まずは、事前説明の後、13時40分より16時35分まで、参加者を5組に分けて、それぞれ1クラスの集合修習における「刑事共通演習1」を見学した。「刑事共通演習1」は、修習生を裁判官役、検察官役、弁護人役等に分け、公判前整理手続期日における争点及び証拠の整理を実演させ、教官から、その講評を行うものであった。次いで、集合修習見学の後、16時50分より18時30分まで、意見交換会が実施された。

2 民事系教員研修における意見交換会の概要

(1) 法科大学院からは教員15名と法科大学院協会の委員1名及び記録係1名が参加し、司法研修所からは民事裁判教官3名、民事弁護教官2名及び所付2名が参加した。
 冒頭に、教員研修等検討委員会の片山直也委員(慶應義塾大学)が挨拶を行い、参加者全員による自己紹介の後、同委員の司会で「法科大学院における要件事実教育・事実認定教育」をテーマに意見交換が行われた。 
(2) 最初に法科大学院教員2名(実務家教員、研究者教員各1名)及び司法研修所教官1名から、それぞれ簡略な報告が行われた。
 まず、要件事実教育に関し、法科大学院の実務家教員からは、①要件事実の教育に際して、掘り下げた内容の教育を行うことが必ずしも容易ではない、②要件事実論自体が理論として可変的な部分が大きく、大学院での教育においてもそれを前提とする必要がある、との指摘がなされた。
次に、法科大学院の研究者教員から、法律基本科目における要件事実教育の取扱いについて、民事実体法の理解を深め、それを確実にすることと要件事実の主張立証責任の所在についての理解とは切り離すことができないものと考えられることから、授業の中で具体的な要件事実の主張立証責任の所在について取り上げることもあるが、必ず言及しているわけではない実情が報告された。そのなかで、要件事実は実体法の規範理解において極めて有用であるものの、具体的な授業の中で、どのような範囲および濃淡で要件事実を取り入れるべきかについての見定めが困難であるとの指摘があった。
 最後に、司法研修所の民事裁判教官からは、司法修習において生きた事件を素材とした臨床教育を行うことを前提に、修習生となろうとする者は、法科大学院において、民事実体法の理解を踏まえた上で、要件事実に関する基本的な考え方を修得し、自分の頭で考えて主張の分析・整理をする能力を身に付けることが期待されている旨が、あらためて強調された。併せて、修習生の中には民法等の基本法の理解が不十分と思われる者が一定数存在していることから、法科大学院においては、基本法についての理解を確実なものとする教育が期待されるとの指摘があった。さらに、学生に対し、民事実体法の解釈を踏まえて、問題となる主張やその要件事実がどのような解釈から導かれてくるのかを考え、理解させることを通じて、理論的な検討に裏打ちされた要件事実教育が行われることを期待しているとされた。
法科大学院における要件事実教育については、司法研修所の民事裁判教官から、ごく簡略なケースで、実体法理解に基づいて何が請求原因となり、何が抗弁となるか、などについてイメージがつかめるようにすることも考えられるとの指摘がされた。なお、法科大学院における事実認定教育に関し、事実認定を検討する前提となる民事訴訟法における基礎概念や基本的なルールの定着を確実にするような教育の実施が最優先であり、例えば、市販の模擬記録を分析することを通じて基礎的な事実認定の手法に関する理解を深めることも考えられる旨の示唆があった。
(3) 以上の報告を受けて、各法科大学院における要件事実教育の現状について意見交換が行われた。
まず、法科大学院における要件事実教育の実情については、上位層の学生については、民法・民事訴訟法の基礎を身に付けた上で要件事実を学ぶことによって更に民法・民事訴訟法の理解を深めていく者もいる反面、司法試験の出題科目ではないなどとして取り組みが不十分な学生がいるなど、学生によって取り組みに差がある実情が紹介された。また、研究者教員から、学生の中には、正解志向が強く、教科書に書かれた要件事実を暗記し、そこから逆算して実体法を理解しようとしてしまい、かえって民法の理解が不十分なものになっている者が見られるようになったとの指摘もあった。
この点、民事裁判教官からは、要件事実は、多様な民事実体法解釈を踏まえて各々の立場から構成され得るものであって、司法研修所においても、それを前提として新問題研究要件事実を発行するなどしてきたところであり、当日参観が行われた模擬争点整理においても、具体的な事実関係を前提に、様々な民法解釈があることを踏まえて適切な法律構成を修習生に考えてもらう工夫を行っていることが紹介されるとともに、法科大学院においても、学生の正解志向を排しつつ、まずは、実体法の理解を徹底すべきであることが繰り返し強調された。
また、民事弁護教官からも、学生たちは、いくつもの試験があることで正解志向が強まっていると思われるが、法律実務家は、一義的な正解がある筈もない混沌とした生の事実と人間に向き合っていく必要があるため、正解志向を早い段階で取り除き、考え続けてもらうことの重要性を伝える必要があるとの意見が述べられた。
さらに、研究者教員からも、学生において正解が一つであるかのように誤解することを防ぐためには、教員が要件事実に言及する際に、どのようなメッセージを発するかを考えておく必要があるとの意見が述べられた。
 次いで、研究者教員からは、従前、要件事実論についてはやや近づきにくいところがあったが、実務家教員と議論を重ねる中で、要件事実論に関連した研究者教員の立ち位置がわかるようになってきたとの声もあり、司法研修所教官からも、研究者教員と実務家教員が連携し、民事実体法と要件事実との関係について共通認識を構築した上で、それを踏まえて、どのように連携していくのがよいか検討していくことが重要であるとの認識が示された。
最後に、研究者教員からは、近年、要件事実教育の必要性がややトーンダウンしているとの指摘もあるが、実務と理論の架橋およびプロセスを重視した教育の観点からは、法科大学院段階における実体法の確実な理解の徹底や要件事実の習得の必要性について、改めてメッセージを発信すべきではないかとの意見もあった。
(4) 事実認定に関連した意見交換においては、時間的制約がある中で、判例における事実関係をどの程度の厚みで扱っていくべきかとの問題提起があり、参加教員から、判例によって形成された規範を真に理解するには、当事者の攻撃防御の応酬から説き起こすことが極めて有用なので、重要な判例については積極的に第一審を紹介しているという実践例が示された。

3 刑事系教員研修における意見交換会の概要

(1) 意見交換会には、法科大学院からは教員14名と法科大学院協会の委員1名及び記録係1名が参加し、司法研修所からは、刑事裁判・検察・刑事弁護各教官室より教官各2名が参加し、所付2名がオブザーバーとして立ち会った。
冒頭に、教員研修等を担当する法科大学院協会の清水真委員(明治大学)が挨拶し、参加者全員が自己紹介した後、同委員の司会で、「司法研修所との役割分担、架橋を意識した刑事実体法・手続法教育」をテーマに意見交換会が行われた。
(2) 第1テーマ:刑事実体法教育
○まず、司法研修所教官1名から、大要、以下のとおり報告があった。
殺意や共謀などの法律概念に関する事実の有無が争われている事案において適正な事実認定を行うためには、要証事実の法的意義と役割に関する理解が不可欠であり、それを前提に法律概念に該当する事実とは具体的にどのような事実なのか、あるいは、その法律概念の判断において重要となる事実は何かといった思考を行うことが重要である。もっとも、本日参観いただいた共謀の有無が争点になる事案に即して言えば、修習生の中には、意思連絡や正犯意思といった共謀の要件については言えるにもかかわらず、その認定のために重要な事実を捉える事ができていない者もいる。また、修習生の起案の中には、自らが定立した規範と具体的事実の評価が対応していないものもある。これらは、教科書等に書かれているものをいわば丸暗記しているだけであり、実体法の基礎的概念や法的三段論法を理解できていないことが原因と考えられる。司法研修所では、基本的な法的概念を理解していることを前提に錯綜した事実の分析について指導を行うので、法科大学院では、基本的な法的概念に関してご指導をいただきたい。
○次に、法科大学院研究者教員から、大要、以下のとおり報告があった。
共謀共同正犯に関する学説のスタンスは、判例で確立した概念をどのように理論づけるかということが中心になっており、共謀共同正犯の理論的根拠づけへの偏重が見られ、要件論への言及が少なくなりがちである。また、具体例については裁判例に依存しており、それを分析するという形で講義されることが多く、事例問題においても、作問のしやすさもあって共謀が所与のものとして示されることが多い。学生は、そのような問題を見て、共謀共同正犯ありきで答案を作成し、個々の具体的事情を羅列して安易に共謀を認定する傾向がある。このあたりが、法律概念に関する事実の認定が苦手であることの背景にあるのではないか。
○意見交換
 司法研修所側からは、実定法の要件を言葉として記憶していても、なお理解が不十分と考えられる具体例の紹介があり、法的概念の確実な理解が重要であることが繰り返し強調された。
 法科大学院教員からは、実際の事実関係を前にすると習得しているはずの知識を活用できずに混乱する法科大学院生が見られることから、「刑事裁判と事実認定」という科目の中で、法律概念に関する事実の有無が争点となる簡単な事案を取り上げて、実体法の概念を身に付けさせている工夫例が紹介された。また、法務総合研修所作成の教材を使用し、殺意が争点となる模擬裁判を行うことで,実体法の理解のかん養を図っている例も紹介された。
また、法科大学院で共犯のように学説が分かれている分野について法的概念を教育する際に、実務の立場を中心に据えるべきかという教員の質問に対しては、司法研修所教官から、正解を1つにする必要はなく、判例の立場であれ学説の立場であれ、法的概念をしっかりと理解し、要件や事実の持つ意味を自分なりに説明できるようにご指導いただきたいとの回答があった。
(3) 第2テーマ:刑事手続法教育
○まず、司法研修所教官から、大要、以下のとおり報告があった。
 公判前整理手続の重要性は日増しに増加しているところであるが、司法修習生には単に手続の流れを理解するにとどまらず、争点整理の重要性を理解してもらいたいと考えている。法科大学院の授業では、公判前整理手続に多くの時間を割くことが時間的に厳しい状況にあると聞いているが、司法修習を見据えて、手続の目的、法曹三者が争点整理において果たすべき役割、証拠開示の位置付けなどについてご指導いただき、また、可能な範囲で模擬手続も通じて、法科大学院生に意識付けをしていただければと考えている
○次に、法科大学院研究者教員から、大要、以下のとおり報告があった。
勤務校における実務基礎科目では、法務総合研修所作成の事件記録教材を利用し、条文と判例が示す要件につき、いかなる事実があればよいか、どの証拠からそれを認定するかという点に力点をおいて授業を行っており、模擬裁判においても、この点を到達目標の中心にしている。しかし、法律基本科目の限界もあって開講時点までに基本的な法知識をマスターさせるのが困難であり、実務基礎科目においても基本的な知識の修得に時間を割かざるを得ず、したがって、実践的なものを授業で行うことはできない現状にある。公判前整理手続に関しても、実務基礎科目は、捜査・公判を合わせて15コマしかないため、公判前整理手続に十分な時間を割くことはできず、また適切な教材も少ない。
○意見交換
 教員側より、公判前整理手続をテーマとする授業について、必修科目の1コマで目的、概要、判例の説明を行い、選択科目である模擬裁判の中で2コマの解説、3コマの実演を実施している例が紹介された。公判前整理手続については、全国的に指導が薄い分野であり、特に模擬手続を実施するためには、適切な教材の確保や,綿密な事前準備のための法曹三者の連携が課題であるとの意見があった。また、実務基礎科目での教育にどの程度のレベルを求めるのか、地方の法科大学院と中央の法科大学院との間で情報格差があるのではないかとの指摘もあった。
教員側より、手続法についても、根底にある法理論を理解していれば、理論を組み立てて表現できるようになるはずであるから、法科大学院においては要件を暗記させるのではなく、むしろその背景にある法理論を中心に教育するべきであり、それこそが法科大学院の制度趣旨にかなうのではないかとの意見があり、この点については異論無く確認された。


(参考)「教員研修のご案内」

平成24年6月22日

法科大学院 関係者各位

教員研修のご案内

法科大学院協会
教員研修等検討委員会
主任 片 山 直 也

 

 法科大学院協会では、昨年度に引き続き、新司法修習における集合修習の授業見学及び司法研修所との意見交換を内容とする教員研修を実施します。
 現在、新65期司法修習生は、各地の配属庁における分野別実務修習を受けていますが、東京、大阪及びこれらの周辺の修習地で修習を受けている修習生(A班)は、分野別実務修習終了後に、司法研修所において集合修習を受けることとなっています。集合修習は、実務修習を補完し、司法修習生全員に対して、実務の標準的な知識及び技法の教育を受ける機会を与えるとともに、体系的且つ汎用性のある実務知識及び技法を修得させることを目的として実施されていますが、この集合修習の模様を法科大学院の教員が実地に見学し、新司法修習の指導内容等に関する正確な情報を得ることは、極めて意義のあることと考えます。さらに、この機会に、司法修習との有機的な連携を踏まえた法科大学院教育のあり方等に関して、司法研修所教官と法科大学院教員との意見交換の場を設けたいと思います。法科大学院は、プロセスとしての新たな法曹養成の中核を担うべき機関として、将来の法曹にとって必要な実務上の学識及びその応用能力並びに実務の基礎的素養を涵養するため、理論的かつ実践的な教育を行うこととされていますが、今回の意見交換会では、そのような観点から、司法研修所教官との率直な意見交換を行い、その結果を法科大学院に広く還元し、今後の教育に役立てていきたいと考えております。
 以上、司法研修所のご協力を得て、下記の要領で平成24年度の教員研修を実施しますので、会員校の皆様には、奮ってご参加下さいますようご案内申し上げます。

月日 民事系教員研修 平成24年8月23日(木)
      刑事系教員研修 平成24年9月11日(火)
 
場所 司法研修所
      〒351-0194 埼玉県和光市南2丁目3-8
 
日程 集合:13:15
      民事系教員研修:司法研修所東館2階第1演習室
刑事系教員研修:司法研修所本館5階大会議室
      ①  事前説明
②  演習及び講評見学
③  意見交換
13:20~13:35
13:40~16:35
16:50~18:30
 
見学内容
  (1) 民事系教員研修:「民事共通演習2」
 修習生を裁判官役、原告訴訟代理人役、被告訴訟代理人役等に分け、弁論準備手続期日における争点整理手続を実演させる。修習生には、主張を整理した上で、主要事実レベルでの争点、重要な間接事実レベルでの争点、それらを立証する人証を明確にすることを求めており、争点整理の結果に基づいて争点の確認をするなどさせる。その後、教官から、争点整理の解説を行う。

(2) 刑事系教員研修:「刑事共通演習1」
 修習生を裁判官役、検察官役、弁護人役等に分け、公判前整理手続期日における争点及び証拠の整理を実演させる。その後、教官から、争点及び証拠の整理の講評を行う。

 
意見交換会
   司法修習との有機的な連携を踏まえた法科大学院教育のあり方等に関して議論すべきテーマを設け、参加者の報告又はコメントをいただき、その上で参加者全員による忌憚のない意見交換を行いたいと考えています。
 なお、参考までにご紹介しますと、昨年度は、民事系では「法科大学院における要件事実及び事実認定の教育の在り方」、刑事系では「法科大学院における公判前整理手続教育の在り方」等について意見交換を実施しました。
 
参加人数及び研修結果の還元
   司法研修所の教室のスペース及び実質的な意見交換を実施する趣旨等から、参加人数は民事系・刑事系とも各15名程度とします。応募人数がこれを上回る場合には、抽選により決定しますが、その際には、1法科大学院当たり1名を原則とするとともに、可能な限り広く、全国各地の法科大学院の教員の参加を募るという観点を加え、教員研修等検討委員会の責任において、参加者を決定させていただくことを予めお断り申し上げます。
 以上のように研修会の規模には限界がありますが、研修会の模様や意見交換会の内容に関する情報については、法科大学院協会ホームページ等で各法科大学院に向けてご報告する予定です。
 
申込先 法科大学院協会事務局
      〒101-8301千代田区神田駿河台1-1 明治大学研究棟4階
電話: 080-3345-3079
  申込方法 メールでお申込み下さい。
  メール・アドレス: jls@meiji.ac.jp
  記載内容 ① 件名を「研修参加申込み」としてください。
② 参加申込者の氏名、所属大学院名、希望日、担当科目、研究者教員・実務家教員の別、過去の参加歴を明記してください。
③ 意見交換会で取り上げるべきテーマを挙げてください。
④ 申込者の連絡先(電話・メールアドレス)を明記してください。なお、メール申し込みを受け付けますと必ず受領の返信が届くはずですが、万一返信がない場合には事務局にお問い合わせ下さい。
 
申込締切 平成24年7月9日(月)
 
参加案内 参加のご案内は平成24年7月13日(金)頃を予定しています。ご希望に添えなかった場合もご連絡いたします。

以上

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