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夢をつかめる職業・弁護士
裕福ではない家庭で育った地方出身の町弁

弁護士 當眞正姫

當眞正姫 弁護士
1973年生まれ。琉球大学法文学部卒業。琉球大学法科大学院修了。沖縄弁護士会所属。とうま法律事務所。

裕福ではない幼少期〜学生・受験時代

 私は、沖縄県の中部で生まれ、経済的に裕福ではない家庭で育ちました。
 私の両親は、従業員が一人いるかいないかという飲食店を経営していて、私は、小学生のときからそのお店の手伝いをさせられていました。私が中高生の頃、学校の試験勉強をしていたにもかかわらず、お店の手伝いをさせられて、嫌な思いをしたことも多々ありました。家に早く帰るとお店の手伝いをさせられるので、それが嫌で、図書館で勉強をしていた時期もありました。
 私は、大学進学を考えた高校3年生の頃、テレビドラマなどで見る弁護士に憧れを抱き、軽い気持ちで法学部に入り、大学3年生の頃、弁護士になることを決意し勉強を始めました。
 司法試験の勉強を行うには、教科書代、参考書代、答案練習会代、予備校受講代、生活費代など、多額の費用が掛かかりました。そのため、司法試験を目指す人は、それなりに裕福な家庭の子供でないと目指せないのではないかと思ったほどでした。私は、貸与と給付の奨学金を受給していたので、それを試験勉強代に充てて司法試験の勉強を行っていましたが、足りなくなったときには両親からの援助はなく、姉や妹、当時付き合っていた彼氏(現在は夫)から援助してもらい、勉強を続けていました。
 結婚後は、夫や夫の両親の援助を受け、法科大学院に通うことができ、そこでも貸与と給付の奨学金を受給して勉強を行い、どうにか新司法試験に合格することができました。
 修習生時代には、東京大学など有名な大学出身の人が多数いることや、初めて満員電車に乗った際に電車に乗っている人の多さ等に衝撃を受けたことを覚えています。

弁護士として稼働

  弁護士になった後は、沖縄県の中部にある沖縄市で、勤務弁護士として働き始めました。
 弁護士となり、「先生」と呼ばれるようになりましたが、今まで長い間培われて身に付けた育ちの悪さ(所作や言動、対応)は、隠そうとしても隠しきれるものではなく、にじみ出るもので、相談者から、私の「人となり」を感じ取られて見透かされているような気がしました。
 しかし、それは、悪いことばかりではなく、良いことでもありました。
 裕福ではない家庭で育ち、両親の金銭面での苦労などを肌で感じていたという経験があるからこそ、私は、弁護士になって、相談者の悩みを我が事のように親身に聞くことができているように思えます。私は、小さい頃、どうして自分だけ、こんな苦しい思いをしなければならないのかと思った時期もありましたが(今思えば大したことではなかったのですが……)、今は、そのような経験をして本当に良かったと思っています。相談者の悩みやトラブルから来る苦しみを、少しは分かちあえているように思えるからです。
 弁護士は、有り難いことに、そのような経験さえも、個性として活かすことができる素晴らしい職業です。

地方裁判所支部地域の魅力⑴

 弁護士が急増した現時点においても、ある程度の人口がいる都市でありながら弁護士が少ない、または、弁護士がいるが人口や事件数に比べて弁護士が不足している……などの地域は、まだあると思います。
 特に女性弁護士は、まだまだ人口や事件数に比べて不足している地方裁判所支部地域が多いです。相談内容が、DV、性的問題、モラハラ、セクハラ、離婚問題などの場合は、男性弁護士ではなく女性弁護士に相談したいという相談者が、女性の相談者だけではなく、男性の相談者でも、確実に存在するからです。私の所に相談に来た人が、「女性弁護士を選んできました。」「女性弁護士が相談しやすい。」「男性は怖い。」などと述べることがありますが、それは、珍しいことではなく、よくあることです。
 地域の人々で、日常生活で遭遇する様々な問題・トラブル(離婚問題、相続問題、交通事故、賃貸借問題など)について、専門家から必要な法的助言を1日でも1時間でも早く得たいという人も多くいます。問題やトラブルについて、法的助言を得ることで、精神的に早く安心したいという気持ちがあるからだと思います。
 沖縄では、ここ最近、大都市から沖縄(しかも、県庁所在地以外)に登録替えをしてくる弁護士が多いです。弁護士が急増した現時点においても、地方裁判所支部地域にはまだまだ仕事があるのです。

地方裁判所支部地域の魅力⑵

 地方裁判所支部地域での弁護士は、新人・若手弁護士のときに様々な事件を扱うことが多く、結果として、仕事上での様々な経験を積むことが出来ます。
 また、地方裁判所支部地域であるからこそ、刑事事件、破産・管財事件、民事再生委員、相続財産・不在者財産管理人など、都市部の弁護士より多くの配点があるように思います。
 さらに、地方裁判所支部地域では、弁護士が足りているわけではないので、飛び込みの相談や、社会福祉協議会や行政等と連携しながらの活動や法律相談、講演会で講師を行うことなどもあります。
 都市で、収入が高く、大人数の弁護士で役割分担をしながら専門分野に特化した仕事をすることも魅力的ではありますが、地方裁判所支部地域で、お金では買えない非常に貴重な仕事の経験を積み、かつ、人的繋がり・ネットワークも築くことができる仕事も、非常に魅力があります。
 弁護士になった後、将来的に独立することを考えている人は、上記視点も加味して、都市部ではなく、地方裁判所支部地域に就職することを検討してもいいと思います。

最後に・弁護士の将来について

 たしかに、弁護士は、新司法試験に合格すれば将来安泰だという時代ではなくなってきました。
 現在、弁護士の数が急増し、勤務弁護士としての待遇の悪さや、即独で開業する弁護士や軒弁として働く弁護士の増加、法律事務所経営の困難さなど、よく耳にします。晴れて新司法試験に合格して弁護士になった後も、様々な問題や苦労があるかもしれません。
 しかし、弁護士は、夢がある素晴らしい仕事であることは確かです。弁護士は、新司法試験に合格し、司法修習を終了した人だけがなれる仕事なので、新人弁護士・若手弁護士であっても、ベテラン弁護士と対等な立場で仕事を行え、女性であっても男性と対等に行える仕事ですし、まだ、社会の中には拾い切れていない法的サービスのニーズが多くあるはずです。
 私は、受験時代、地域貢献したい、女性や少数者の人権擁護をしたい、経済的にもそれなりに成功したいなどと思って弁護士を目指しました。今、弁護士として、縁がある一つひとつの仕事を全力で対応することで、貧乏な地方出身の私でも、地方に居ながらとりあえずはそれなりの収入が得られ、充実した毎日を送ることが出来ています。
 最近、暗い話しか聞かないような弁護士の将来ではありますが、実際は、個性を活かしながらも夢(充実感?それなりの収入?(笑))をつかめる素晴らしい職業なのです。

法を勉強したのはどこですか?
 家、大学、法科大学院、弁護士事務所。
いちばん使っている法律は何ですか?
 憲法の精神から考えるという視点からすると、憲法のような気がします。
いま気になっている法律はありますか?
 税金が気になるため、税法です。
仕事は楽しいですか?
 扱う仕事内容が一番の原因だと思いますが、楽しいと断言できる状態には達していませんし、今後も達することが出来るか疑問です。しかし、とても充実感を持てる仕事です。
法とは何でしょうか?
 不完全ながらも人情味のあるもの。

(法学セミナー2017年3月号22-23頁に掲載したものを転載)

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