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弁護士の自治体における新しい役割
町田市での任期付職員としての勤務

弁護士 秋山一弘

秋山一弘 弁護士
1970年生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。第二東京弁護士会所属。日本弁護士連合会法律サービス展開本部自治体等連携センター委員。第二東京弁護士会行政連携センター部会副委員長。

はじめに

  私は、2010(平成22)年4月から2013(平成25)年3月までの3年間、東京都町田市で特定任期付職員として勤務していました。役職は総務部法制課の法務担当課長です。
 町田市は、東日本で最初に公募により弁護士を採用した基礎自治体です。弁護士採用以前にも、他の専門家を任期付職員として採用しており、外部からの意見を積極的に受け入れる気風のある自治体です。
 私の場合も職員の方々にとても好意的に受け入れていただけました。そして、職員の方々に支えられながらではありますが、なんとか期待に応える仕事ができたのではないかと思っております。顧問弁護士の助言も受けながら未経験の自治体法務という分野の仕事に取り組み、自治体行政に関して多くのことを学んだ3年間でもありました。

特定任期付職員とは

 高度な専門性を備えた民間人材の活用等を目的として、2002(平成14)年に地方公共団体の一般職の任期付職員の採用に関する法律が制定されました。この法律を受けて条例を制定することにより、自治体でも弁護士を任期付職員として採用することが可能となりました。任期は5年を超えない範囲内と定められています。
 そして、任期付職員には特定任期付職員と一般任期付職員とがあります。弁護士の場合は、その高度な専門性から特定任期付職員として採用している自治体が多くみられます。私も特定任期付職員として採用されました。

町田市での業務内容

 町田市での法務担当課長としての所管業務は、「訴訟(訴訟事務や指定代理人としての活動)」、「職員を対象とする行政法律相談」、「不服申立制度の裁決・決定」の3つでした。法務能力の向上を目的とした職員への指導・人材育成も役割の1つで、研修講師をすることもありました。その他、任期の定めがある以外では他の職員と変わりはありませんので、所管業務以外の業務であっても進んで担当させてもらっていました。
(1) 弁護士は訴訟代理人として訴訟活動をしますが、自治体職員の場合は指定代理人となれば弁護士と同様に訴訟活動を行えます。そのため、私も訴訟代理人としてではなく、指定代理人として訴訟活動を行っていました。
(2) 所管業務の中でも最も大きな比重を占めていた業務が行政法律相談です。顧問弁護士による行政法律相談とは別に行っており、「よろず法律相談」と銘打って、相談を常時受け付けていました。自治体は、福祉、教育、経済、文化、建設、開発等々と社会全般にわたる幅広い分野を業務としているので、相談内容も多種多様であり、緊急性が高いものもあったりするので非常にハードな業務でもありました。申込のあった部署に出向くことや一緒に現場を確認しに行くことなどをしながら相談を受けていました。現場を見に行くと、相談案件をより理解できるということだけでなく、その自治体のこともよく分かるようになるというメリットもあります。また、行政関係の法令は数多くあり、それらすべてを知っている訳ではありませんので、職員と共に検討しながら行うこともありました。意外にも、民法に関連する相談も多くありました。どの相談においても、弁護士実務で身につけた、事件の推移やリスク等を見通す力、事実の整理や証拠の収集に関する方法、法解釈能力などが役立ちました。
(3) 行政不服審査法に基づく不服申立に対する裁決・決定というのは、裁判の判決と共通するところがありますので、これも弁護士としての知識や経験が役に立ちます。同法が改正され、今後はより一層弁護士の関与の重要性が高まるのではないかと思います。

採用自治体の増加

 自治体の行政活動はすべて法令や条例に基づいて行われるものですので、法律実務の専門家である弁護士が貢献できる面が多くあります。その貢献度の大きさが認識され始めており、現在、弁護士を採用する自治体の数は右肩上がりで増加しています。
 地方分権の流れが進んで行くなかで、自治体はこれまで以上に主体的な行政活動の実現が求められています。それぞれの地域の特性や実情に応じた政策を実現していかなければなりません。社会のあらゆる課題に対応していくことを求められており、住民からも様々な役割を幅広く担うことを期待されています。
 そのような自治体において、弁護士を自治体内の職員として採用し、活用することは有用なことです。弁護士にとっても、社会への貢献を直接的に感じられ、やりがいがある仕事であることも、増加の一因となっています。また、日弁連法律サービス展開本部自治体等連携センターにおける自治体の任期付職員に関連するシンポジウム、座談会等の企画・実施等による任用促進の動きも増加を後押ししています。

任期付職員の業務内容の広がり

 2015(平成27)年1月5日時点の日弁連調べで、全国各地の自治体において、69名の弁護士(ただし、現在は弁護士登録をしていない者も含みます。)が任期付職員として勤務しています。
 2009(平成21)年に町田市が弁護士を募集した当時は、自治体で任期付職員として勤務する弁護士はわずか6名でした。2015(平成27)年4月以降は更に増えることになります。
 そして、その増加と共に業務内容も広がりをみせています。私が担当していた業務内容と同様の業務を担当している弁護士も多くいますが、それに限らず、条例規則等の法制執務、債権管理回収、政策企画などを担当する弁護士も出てきています。それぞれの自治体の求めに応じて担当する業務に違いがあり、その幅が広がってきているということです。また、法務関係の部署に配属される弁護士が多い一方で、福祉関係の部署に配属される弁護士も出てきています。

おわりに

 町田市で勤務するにあたり、何の不安や心配もなかったわけではありません。これまでの弁護士業務から離れることになるので諸々の不安や心配がありました。
 しかし、任期を満了して2年近くが経つ今も、町田市で勤務して本当によかったと思っています。町田市での仕事をやり遂げることができた充足感があるというだけでなく、社会、地域に対する理解を深めることもできました。
 現在は以前と同様な弁護士業務を行っておりますが、行政関係の知識も身に付けることができたので相談への回答の引き出しの数も増えました。顧問先の企業からの相談にあたっても、組織内での勤務経験が役に立っています。
 そして、自治体法務関係の仕事が新たに加わりました。自治体の顧問、委員、研修、執筆等の仕事の依頼がくるようになり、仕事の幅が以前に較べて遥かに広がっています。
 読者の皆様におかれましても、自治体法務という昔からありながら新しいともみられている法分野に関心をもっていただき、自治体内で弁護士が任期付職員として勤務するという新しい役割の有用性についてご理解いただければと思います。

法を勉強したのはどこですか?
 大学卒業後司法試験の受験勉強を始めてからです。
いちばん使っている法律は何ですか?
 民法ではないかと思います。
いま気になっている法律はありますか?
 民法改正と行政不服審査法です。
仕事は楽しいですか?
 責任の重さを強く感じ、やりがいのある仕事です。
法とは何でしょうか?
 人にとっては守るべき最低限のルール、行政にとっては適正な運用が求められるルールです

(法学セミナー2015年4月号4-5頁に掲載したものを転載)

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