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データから見る日本の法曹、法科大学院の現在

日弁連法曹司法調査室、弁護士 片桐 武

1.はじめに

 2004年(平成16年)4月、新たな法曹養成制度の中核である法科大学院が開校し、既に14年以上が経過しているところ、法科大学院制度においては、受験者数の減少、司法試験合格率の低迷、経済的・時間的負担などの問題が指摘されていた。もっとも、近年では、法科大学院志願者の減少が下げ止まりつつあること、奨学金制度が拡充されてきていること、学部の早期卒業制度の利用により学部入学から5年で法科大学院を修了できるルートが拡充されてきていること、司法試験合格率が上昇傾向にあり、法学既修者においては法科大学院修了後3年目で7割近くが合格していること等から、法科大学院制度は改善傾向にあるものと考えられる。
 本稿では、法科大学院、司法試験等の法曹養成のプロセスにおける客観的な状況をデータとして概観し、法科大学院の現在について検討する。

幅広い弁護士の仕事の世界

小塩 それでは、実際に、どのような業務をしてるかというところを、もう少し掘り下げて説明していきましょう。
毛受 私の事務所では、訴訟が多いので、少なくとも2日に1回くらいは裁判所に行って裁判をします。実際の裁判では、すぐに証人尋問をするわけではなく、お互いの弁護士が、主張を記載した書面を事前に裁判所に出して進めていくということになります。なので実際には、裁判所に提出する書面を書いたり、あるいは書くためにクライアントからヒアリングをしたり、資料をもらったりするなどの作業が1日のうち多くを占めます。訴訟以外では、契約書のチェックなどの一般的な企業法務ですね。最近行ったものとしては、最近できた上場企業に適用されるコーポレートガバナンス・コード(企業統治のための新たな規範)の対応や、会社に不祥事が起きてしまった場合の対応、そういったものをやっています。個人的な仕事としては、刑事事件もやっておりますし、ちょっと変わったところとしてはCMの出演契約書を作ったりもしています。
戸塚 私は、みなさんがイメージしやすい業務をやっているほうだと思います。たとえば、法律相談を受けてアドバイスをしたりとか、それから依頼を受けて交渉したりとか、裁判所に行って法廷に立ったりとか、それから警察署に行って被疑者に接見をしたりとか、そういったことを日常的にしています。絶対数として、一般民事の事件は多いですけれども、他の弁護士と比べれば刑事の事件を比較的多くやっていて、熱心に取り組んでいるほうだと思います。刑事の事件としては、事案としては万引きとかから殺人事件まで、あとは共犯の複雑なものとか、無罪かどうかを争う事件とか、再審を求める事件とか、告訴まで幅広くやっています。刑事訴訟法の証拠能力の勉強も重要ですので、みなさんしっかり勉強してくださいね。あと、特徴のある分野として、行政法分野の外国人の入管事件をやっていまして、入国管理局に行って申請の取次ぎをしたりとか、行政訴訟の提起などもやったりしています。
重政 私は、他の方々と異なりまして、企業で働いており、しかも現在みなさんが企業で弁護士が働くということで一般にイメージされるいわゆるインハウス業務ではなく、訴訟とか不正調査にかかわる証拠をコンピュータやスマホから復元して調査するという「デジタルフォレンジック調査」という業務のコンサルティングをやっております。最近ですと、東芝の不適切会計事件で元社長のPCから削除されたメールが大量に発見されたことが、利益の嵩上げに元社長が関与していたことを示す決定的証拠になったということは、新聞報道などでみなさんもご存知かもしれませんが、調査を行うにあたって、弁護士や企業の法務部とコミュニケーションをとったうえで、実際にどういう証拠が必要になってくるのか、それらをどういう形で収集していくのかということについて、お客様と弊社のエンジニアとの間の橋渡しを行うというのが私の仕事です。また現在は、お客様の対応だけでなくて、本を書いたり、講演を行ったりしてデジタルフォレンジックを広めるという仕事もやっています。最近はテレビ局などから取材を受けることもあります。5年前に大阪地検の証拠の改ざん事件があったことはご存じかと思いますが、あれも実はうちの会社が関わっておりまして、先日その件に関して取材を受けて関西ローカル番組に1分ほど出演しました。
鴨下 私の事務所は横浜にありまして、顧問先を結構多く抱えているので、企業法務がメインではあるんですけれども、やはり地元の企業という性質上、一部は上場企業ですが大部分は小規模な企業が多いので、一般民事と変わらないような企業法務というものもたくさんあります。あとは、社長さんの離婚ですとか、事業承継に伴う相続問題など、いろいろ幅広くやっているイメージです。刑事事件の国選弁護も年に2、3件はやっているので、東京の企業法務をやっている弁護士さんよりは、たくさん幅広くやっているという感じです。
小塩 私は、先ほど申し上げたとおり、企業法務、訴訟・紛争と、あとスポーツをやっています。私自身、ラグビーをずっと大学までやっていて、いま本当に嬉しいことにラグビーが非常に人気になっています。大学の同期や先輩・後輩がいまちょうど日本代表で活躍しているメンバーなので、彼らと一緒に選手会設立の準備をしています。日本代表の廣瀬選手、トップリーガーの和田選手、川村選手が中心となって頑張ってくれています。近々、記者会見で発表できると思いますが、いろいろな問題もあり、調整が難しいです。選手会については、弁護士としてはあまり関係ないかと思われるかもしれないですが、定款を作るにしても、議事録を作るにしても、どこでも法律は関わってきます。私自身、知らないことも多かったので、一般社団法人の仕組み等を一生懸命勉強しました。

2.適性試験の受験者数の推移

 

 平成29年度までは、法科大学院に入学するには、法科大学院全国統一適性試験(適性試験)を受験した上で、各法科大学院の入学試験に合格する必要があったが、 平成30年度以降は入学者選抜試験における適性試験の利用が任意化されることとなった。そして、適性試験管理委員会によれば、平成30年度は適性試験は実施されず、平成31年度以降についてはあらためて実施の可否が検討されることとなっている。
 この適性試験の受験者実人数は、平成29年度は3,086名となっており、平成28年度の3,286名と比べると約6.1%の減少である。
 2011年(平成23年)以降,平成28年度までと比較して、平成29年度は受験者実人数の減少率がかなり小さくなっており、法科大学院志願者の減少が,下げ止まりつつあると評され得る状況にある。

3.法科大学院の入学者数・定員等の推移

 

 法科大学院志願者数は年々減少しているものの、この点についても、平成27年度(1万0370名)から平成28年度(8,278名)の減少率が約21.2%であったのに対し、平成28年度から平成29年度(8,159名)の減少率は約1.4%と大幅に低下しており、この点からも法科大学院志願者の減少が、下げ止まりつつあると評され得る状況にある。

4.早期卒業・飛び入学制度について

 法科大学院では、学部の早期卒業による入学や、法科大学院への飛び入学を受け入れており、これらの制度による法科大学院既修者コースへの入学者数は、平成26年には17人であったのが、平成29年度には47人に拡大しており、文科省の当面の目標としては100人とされている。
 このように、学部を3年で早期卒業し、法科大学院既修者コースを2年で終了した場合、学部入学から5年で司法試験受験資格を得ることができるルートが拡充されてきている。

5.奨学金制度について

 86%の法科大学院において、独自の給付型の支援制度が設けられている。また、大学全体としての制度を含めると、全ての法科大学院において給付型の支援制度が設けられている。

6.法科大学院修了資格に基づく受験者の司法試験の結果の推移について

 法科大学院入学者数が減少していることから、司法試験の受験資格を持つ法科大学院修了者数も減少しており、受験者数も減少傾向にある。

※司法試験受験回数制限の緩和、短等式試験科目の削減
 2014(平成26)年5月28日に司法試験法改正案が成立し、平成26年司法試験までは法科大学院修了後または予備試験合格後の5年間に3回までの回数制限があったが、2015(平成27)年司法試験から5年間に5回受験できることとなった。また、司法試験受験生の負担軽減の観点から、2015(平成27)年司法試験から司法試験の短答式試験科目を憲法、民法及び刑法の3科目とすることとされた。
 合格率については、平成28年が約20.7%であったのに対し、平成29年は約22.5%に上昇している。今後も、法科大学院修了者数の減少に伴い、合格率は上昇していくものと考えられる。

7.法科大学院の修了年度別累積合格率

 累積合格率を見ると、法学既修者については、法科大学院修了後3年目で7割近くが合格している。また、法学未修者については、修了後5年目で5割近くの合格率である。
 法科大学院制度創設当初、また法曹養成制度改革推進会議決定においても、法科大学院で充実した教育が行われることを測るひとつの指標として、法科大学院を修了した者の累積合格率7割以上の数字が掲げられていた。
 既修者に関しては、概ね3年目でこの7割の指標をほぼ達成することができている。一方、未修者をはじめ修了者全体で見れば、抱える課題はいまだ大きい。

8.予備試験の結果の推移、予備試験合格者の司法試験結果の推移について

 予備試験の受験者数は増加傾向にあり、2017(平成29)年予備試験では1万0743人の受験者となっている。
 2017(平成29)年の予備試験合格資格者の司法試験合格率は72.5%であり、法科大学院修了者の22.5%よりも大幅に上回っているが、そもそも予備試験に合格する際に約4%という狭き門をクリアする必要があることからすれば、予備試験ルートの方が司法試験に合格しやすいとは言えない状況であると考えられる。
 また、2017(平成29)年の司法試験合格者の中の予備試験合格資格に基づく者の属性を見ると、出願時において、大学学部生は89人、法科大学院生は96人,法科大学院修了生は27人であり、この三者で212人、全体の73%を占めている。また、「大学学部生」のうち、出願時大学4年生で翌年度に予備試験に合格した者の多く、平成26年では9割を超える者が、法科大学院に進学していたことが明らかになっている。これらのことからは、予備試験資格に基づく司法試験合格者とはいっても、多くの者が法科大学院での教育を経て法曹になっていることがわかる。

9.法曹人口の推移

 法曹三者の人口は増加傾向にあり、特に弁護士数は大きく増加しており、2017(平成29)年には3万9027人となっている。

10.就職状況について

 弁護士未登録者の状況は、ピーク時である66期は一斉登録時点で570人の未登録者がいたが、70期は一斉登録時点で356人、1ヶ月後には156人にまで減少している。合格者数が減少している影響もあるものの、割合でも低下しており、66期の弁護士一斉登録時点の未登録者の割合は28.0%、1ヶ月後で15.3%であったところ、70期は弁護士一斉登録時点が22.8%、1ヶ月後が10%と低下している。
 このことからは、弁護士の就職状況について改善の兆しが見られているものと見られる。

11.新規登録弁護士アンケート結果から見る法科大学院の教育効果

 日弁連では、毎年新規登録弁護士に対してアンケートを行っており、69期新規登録弁護士に実施されたアンケート内容から法科大学院の教育効果に関する内容を以下抜粋して紹介する。

[1]司法試験への対応

 司法試験について、出身法科大学院の教育で「十分に対応できた」、「対応できた」と答えた方が約56%であり、半数以上の方が法科大学院の教育で相当程度司法試験に対応できたと考えていることがわかる。

〔法科大学院教育で役に立った点〕

「出身法科大学院の教育のどのような点が約に立ちましたか」という質問に対しては、授業が役に立ったとの回答が56%と最も多く、次に設備等の学習環境が役に立ったとの回答が28%となっている。
また、自由記載欄では役に立った点として、次のような点が挙げられていた。
・チューターゼミ(OB・OGの若手弁護士の先生が見てくれるのは大きい)
・教授陣による個別の質問対応等
・自主ゼミ

 このような自由記載に見られるように、法科大学院においては、教授や先輩法曹との距離が近いことから、理論・実務いずれについても気軽に質問をできる環境が整っている場合が多いものといえる。

[2]法律実務基礎科目の有用性

 法科大学院における法律実務基礎科目を受講した方においては、訴状、答弁書、準備書面、その他民事系起案、その他刑事系起案において、多数の方が「役に立った」と回答している。著名な実績のある裁判官・検察官・弁護士等が教員として法律実務基礎科目(臨床教育)を教えている法科大学院も多くあり、そのような実務家から実務上の注意点等のノウハウや考え方を学べるのは非常に貴重な機会であり、法科大学院の大きな魅力の一つといえる。

12.修了生の考える法科大学院の魅力、就労先の修了生に対する評価

 法科大学院修了生においては、学修に打ち込める施設・設備、教員等の教員体制、教育内容・カリキュラム、法科大学院における教授・実務家・学生間における人的ネットワークなどを法科大学院の魅力として評価しているものと見られる。法曹になった後においても、法科大学院で培った人脈を生かせる場面は多く、人的ネットワークを構築できる点は、非常に大きなメリットであると考えられる。
 また、就労先の約6割から8割が法科大学院修了生に対して満足しており、特に公的機関・民間企業において、積極的な評価を得ている。

13.法科大学院出身の弁護士の活動領域

 法科大学院出身の弁護士の活動領域に関し、日弁連において次のようなパンフレットを作成しており、法科大学院出身の弁護士が、多様な分野で活躍していることがわかる。

人を、社会を守る 弁護士のシゴト
(http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/booklet/data/shigoto_pam_160405.pdf)

弁護士の仕事等について紹介

くらしと人権を守る弁護士 ひまわりはあなたのために咲いています
(http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/booklet/data/himawari_pam2015.pdf)

弁護士の仕事等について紹介

弁護士になろう!!★8人のチャレンジ★
(http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/booklet/data/bengoshininarou.pdf)

法科大学院を修了し、司法試験に合格して、弁護士になった8人が、人権活動、降雪事務所、外国人事件、原発ADR、自治体業務、医療法務、企業内弁護士、政策秘書等、それぞれの場でチャレンジし、楽しく働いている様子を紹介

8人のチャレンジ「社会人編」
(https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/booklet/data/bengoshininarou_shakaijin.pdf)

それぞれ社会人経験ののちに法科大学院へ入学し,合格した8名の多様な分野での活躍を紹介。

弁護士になろう☆私のゲンバ☆
(http://www.nichibenren.or.jp/activity/nichibenrentv.html)

子供の人権・被災地支援・裁判員裁判・司法過疎・企業法務・地方自治体など、様々な現場で活躍する法科大学院出身弁護士のインタビュー動画。

14.法科大学院の先進的取組
~平成29年度法科大学院公的支援見直し教科・加算プログラム審査結果

 法科大学院の入学定員の適正化など抜本的な組織見直しを加速するため平成25年11月に文部科学省が公表した「公的支援の見直しの更なる強化策」に基づき、法科大学院に期待されている高度専門職業人を養成する機能の更なる強化・充実を図るべく、各法科大学院から教育の先導的なモデルとなる取組の提案が行われ、平成28年12月26日、これを評価して、公的支援の加算となる取組が決定された。ここでは、その中のうち、卓越した優れた取組とされたものを取り上げる(詳細は文科省ホームページ参照)。

〇卓越した優れた取組
・北海道大学
知的財産法領域における社会的ニーズに即応した「実効的な継続教育プログラム」の実施

・東京大学
①東アジア法の理解を通じた多面的・創造的な法律家の育成
②海外派遣等による国際的・先端的な活動領域の開拓
③英語での授業の充実による国際的な法律家の育成

・一橋大学
未修者教育を充実・発展させるための取組

・岡山大学
地域中核法科大学院の地域連携による西日本(九州・中四国)地区における地域貢献の実現

・立教大学
観光ADR事件管理者業務を通じての修了生弁護士に対する継続教育

15.おわりに

 以上見てきたように、法科大学院を取り巻く状況は依然として厳しいものがあるものの、
法科大学院修了生においては法科大学院の授業や設備・学習環境等を魅力として評価していること、法科大学院における教育を経て弁護士になった者は多様な分野で活躍していること等がわかる。今後、法科大学院全体の総定員・入学者数が適正規模に近づくにつれて、法科大学院出身者の司法試験合格率は次第に向上していくことが期待されていることから、今後法科大学院に入学する方々にとっては法曹になって社会で活躍できる可能性はこれまでより高くなるものと考えられる。

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