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ライブ法科大学院教育
行政法の場合

中央大学法科大学院教授 大貫裕之

1.はじめに

 専ら法曹養成のための教育を行うことを目的とする法科大学院では、少人数(中大は40名程度)の密度の濃い授業によって、六法科目をはじめとする法理論教育と、弁護士の監督の下に、法律相談、解決案の検討等を具体的事例に則して学ぶ「クリニック」などの実務教育も行われている。法科大学院の開講科目群は、法律基本科目群(公法系、民事系、刑事系)、実務基礎科目群(法曹倫理、法情報調査、法文書作成、エクスターンシップ、クリニック、模擬裁判など)、基礎法学・隣接科目群(法哲学、法社会学、外国法、法と経済学など)、展開・先端科目群(倒産法、経済法、租税法、知的財産法、環境法など)に分けられている。
 多くの法科大学院においては、公法系の必修科目に10単位から12単位を割り振っている。そのうちおおむね半分が行政法である。行政法に関して中大は、必修科目として、2年前期に行政法基礎(1単位—100分の授業を半年7回)、2年後期に公法総合Ⅰ(2単位—100分の授業を半年14回)、3年前期に公法総合Ⅱ(2単位)、3年後期に選択科目として行政法応用(1単位)をおいている。行政法基礎は文字通り行政法の基礎を取り扱い、判例や理論をみっちりと叩き込む講義が行われている。行政法応用は、行政法の事例問題について自宅起案を行わせ、講義で議論を行いながら解説を行う科目である(行政法応用は弁護士教員が担当し、その他の科目は学者教員が担当している。その他、展開先端科目に弁護士教員が担当する「実務行政訴訟」(2単位)がある)。これらの講義科目に加えて、テーマ演習が開講されており、判例により地方自治の現代的な課題を学ぶ演習などが行われている。
 本学における行政法教育の中心をなしているのは公法総合ⅠとⅡだと言ってよいが、この二つの科目の内容及び行政法の体系の中での位置づけは次の通りである。行政法は大きく行政組織法、行政作用法、行政救済法の3つにわけることが可能だが、公法総合・は、行政作用法のほか、行政救済法の中の国家補償法の領域をカバーし、これに対し、公法総合Ⅱは、行政救済法のうち行政争訟の領域を主に扱い、違法な行政活動を是正するための適切な方法は何か、あるいは、提起する訴訟が適法であるためには、いかなる主張をすればよいか、ということがらを学ぶ。尤も、公法総合Ⅱでは、公法総合Ⅰのメインテーマである行政活動の違法性(より正確には本案上の主張)も取り扱う。比重に違いはあるが、公法総合ⅠとⅡを通じて、行政活動の違法性の把握の仕方、違法な行政活動を是正するための適切な方法は何か、提起する訴訟が適法であるためには、いかなる主張をすればよいか、という問題を検討している。
 以下、公法総合Ⅰ(2年後期)の講義を例にとって法科大学院における行政法教育の実際をお伝えすることにする。

2.講義の前から後まで ~予習から定期試験まで

講義に参加する学生はA4で3から5頁程度の、参照条文付の事例問題(すべての事例問題は冊子体にまとめて学期開始前に配付してある)を事前に解いてくることが求められている(起案することまでは求めていない)。事例問題の前には、(1)参照すべきテキスト該当箇所を頁で示した部分、および(2)基本事項の確認問題(たとえば、「裁量処分が違法と判断されるのは、どのような場合か」、「裁量処分の司法審査の方式としての『判断代置型審査』とは、どのような審査方式のことか」、「裁量処分の司法審査の方式としての『判断過程の統制』とは、どのような審査方式のことか」などといった基本的な事項の確認)が付されている。(1)(2)の部分は学生が予習の際に各自必要に応じて確認することが求められている。(2)の基本事項は「行政法基礎」で学習済みであり、講義で確認することは原則としてないはずであるが、現実には講義の中で確認することがある。
 学生が事例問題を充分予習してくることを前提として、教師から学生に質問を発して講義が展開する。この模様は下でかなり詳しく再現する。
 講義のあとにすみやかに詳細な「解説」をメールで配信する(A4で十数頁程度に及んでいる)。この「解説」には、講義における学生とのやりとりによって判明した、学生が間違いやすいところや、学生の理解が難しいところなどについて補足的に説明を加えるのが通例である。「解説」には、設問の解説だけでなく、講義では詳細に触れられない学説の諸説や、参考判例も抜粋という形で収録している。学生の授業評価アンケートでは、「解説」が役に立ったと書く者が多いが、量が多いとの感想を持つ者もいる。
 学生の成績評価は、日々の授業における発言及び定期試験の成績によって行われる。定期試験は授業で取り扱う事例問題と同様の形式の事例式の論述問題と5問程度の択一問題によって行っている。
 学生の評価が確定し、各自に伝えられると同時に、定期試験の解説・講評が公表される。この解説・講評の作成は義務とされている。行政法は毎回A4十数枚に及ぶ詳細な解説・講評を作成している。
 もちろん講義におけるやりとりだけでなく、個々の学生に対する講義外での応答もよくなされる。まず、講義の後に質問に来る学生は一定数いる。また、少なくとも週一度設定することが義務付けられているオフィスアワーを利用して質問をしてくる学生もいる。教員と学生の距離の近さが法科大学院の大きな特徴である。

3.講義の素材 ~事例問題

次に、公法総合・のある授業回における実際のやりとりを紹介するが、その前提となる事例問題は次のようなものである(抜粋)。

【事案】
 略
 Xは、第58次甲山県教育研究集会を同県内の乙川市立中央中学校で平成20年11月15日(土)と翌16日(日)の2日間にわたって開催するため、同年9月10日、同校の校長に中学校の施設の使用許可を口頭で申し入れた。……Xに中学校の施設の使用を認めた場合、過去の類似の事例に照らすと、右翼団体の街宣車が押し掛けてきて周辺地域が騒然となり、周辺住民から苦情が寄せられる恐れがあるため、Xに中央中学校の学校施設を使用させることは控えるべきであるとの結論に達し、校長は、直ちにその旨をXに伝えた。この校長からの連絡に不満をもったXは、その後、市教委の担当者と面談するなどして交渉を続けたものの、納得のいく結論を得られなかったので、正式に中央中学校の学校施設の使用許可を得るため、同年10月27日に所定の手続きにしたがって許可申請書を提出した。これに対し、市教委は、同年11月4日、市教委が制定した乙川市立学校施設使用規則(以下「本件使用規則」という)に照らし、学校施設使用不許可決定をした。Xに対する学校施設使用不許可決定通知書には、不許可理由として、本件申請は乙川市立学校施設使用規則4条1項2号に該当するものの、中央中学校及びその周辺の学校や地域に混乱を招き、児童生徒に教育上悪影響を与え、学校教育に支障をきたすことが予想される(同規則5条3号)との記載があった。
 Xは、昭和26年から毎年継続して甲山県の公立の学校施設を会場として教育研究集会を開催してきたのであり、本件集会を除いて学校施設の使用が不許可になったことはこれまで一度もなかったため、Xは、上記の不許可決定に憤慨した。そこでXは法的手段をとるべく、藤原弁護士に相談をした。同弁護士は同じ法律事務所に所属する新米の土田弁護士に本件に関する調査を行うよう指示した。その3日後の同年11月11日、両弁護士の間で次のようなやりとりが行われた。
 弁護士同士の会話及び参照条文 略
 設問 略

 教育実践上の問題点について、各教師や学校単位の研究や取組みの成果が発表され、討議される教育研究集会の開催のために、公立小中学校等に勤務する教職員によって組織された職員団体が某中学校の施設の使用許可を求めたところ拒否されたという事例である。
 この事例を前提として、職員団体が当初の予定通り本件集会を開催できるようにするためには、どのような訴訟(行政事件訴訟法に定めるものに限る)を提起するのが最も適切か(設問1)、仮の救済として何を申し立てて、何を主張すればよいか(設問2)、使用不許可処分の実体法上の違法を主張する場合、どんな主張をすべきか(設問3)、という設問が付されている。

4.講義の展開

 以下、法科大学院の講義(行政法)の実際の展開をできるだけ忠実に再現してみた。誌上で再現したのは、講義の最後の部分の20分弱だろうと思われる。できるだけ忠実に再現したので、文字で読むと、やや適切でない展開になっているところがある。井上ひさしが、自身の対談のテープおこしを読んで、自分は本当に大丈夫かと思ったと書いていたが、私もそう思わざるを得なかった。
 大貫 そう。職権で行われる処分と申請に基づいて行われる処分に分かれるわけだ。それぞれ直接型義務付けと申請型義務付けに対応します。さっき答えてもらったように、本件で提起する訴訟は申請型義務付け訴訟です。さて申請型義務付け訴訟の訴訟要件です。まず、救済の必要性で、37条の3の第1項。これも説明したところです。直接型義務付け訴訟の損害の重大性および補充性の要件に相当する要件です。……略……次が原告適格。37条の3の第2項。これは言われてみれば当たり前です。当然申請権を前提にしているのですが、現実に申請権を行使していない人は原告適格を持つという必要性が全くないので、現実に申請しているということが重要です。これが2番目。3番目が併合提起要件。本件で併合提起する訴訟は何ですか? N君。
 学生 取消訴訟です。
 大貫 だめ。
 学生 すいません。正式に言います。
 大貫 習慣にしましょう。
 学生 何日かといいますと……11月4日に行われた……。
 大貫 そんなに限定しなくていいです。準備書面に書くときは何月何日に行われたとかって特定しなきゃいけないんだけど、ここは請求の趣旨が大体わかるので結構です。
 学生 市教育委員会の本件学校施設の使用不許可を取り消す訴訟。
 大貫 いいです、OKです。ということで、本件は拒否処分があるので、その拒否処分の取り消し訴訟を併合提起するというのが正しいわけです。
 先にいきますね。はい、注意点ね。本件であれば、不許可処分の取消訴訟を併合提起するよね。言うまでも無いことですが、この取消訴訟も適法でなければだめだよ。いいね。だから、この取消訴訟には出訴期間がついて……いる……いない……いるよね。だから、義務付け訴訟それ自体には出訴期間の制約というのはないのですが、併合提起された訴訟との関係で、出訴期間の制約が働くことがあるということは覚えておいていただきたいと思う。
 では、1つ質問します。生徒の理解度を確認するための訴訟を東京地裁に提起したら、これはもう全く確認の利益がないということで却下だな(笑)。はい、まあ、ともあれ、皆さんの理解を試す確認訴訟を提起したいのですが、併合提起するのは取消訴訟でしょ。じゃ聞くね。Xがこの不許可処分の取消訴訟の原告適格をもつということを条文を使ってさっと説明してください。N君。
 学生 条文としては行政事件訴訟法9条の、条文上で今回はXが法律上の利益を有する者。
 大貫 ちゃんと正確に言って。9条は2項に分かれています。
 学生 取消訴訟。当該処分、または裁決の取消を求めるときだから……今回の不許可処分の取消しを求めるについて法律上の利益を有する者と言えるか否か。
 大貫 条文をもっと限定して、ちゃんと言ってください。
 学生 9条第1項の……。
 大貫 1項で考える? 1項に書いてある?
 学生 はい。
 大貫 そうだと思う人? そうじゃないと思う人? じゃあN君に聞くけど、2項ではないという理由を簡単に説明してください。
 学生 2項というのが、自分のイメージだと、三角関係といいますか……。
 大貫 三角関係か……。三面関係といったほうがいいね。別に悪くないんだけど、三角関係っていうとゴシップ的……。そういうのを三面関係と言うんです。
 学生 三面関係の場合に2項を使うというイメージだったので、今回の問題が、本件においては三面関係となっているのかなとか考えたところ、たしかに、校長と教育委員会とXと一種の三面関係と言えなくもない気がしたんですけれども、あくまでも今回の取消訴訟においては教育委員会との2当事者間という言い方が正しいのかわかりませんけれども、そういった対立の関係なので、1項でいいのかなという風に思いました。
 大貫 なるほど。三面関係二面関係という概念は有効なことがあります。今聞いててわかったんだけど、そういう枠組みで考えると、登場人物が3人以上いると三面関係かって悩んじゃうわけじゃないですか。本件も三面関係で悩んだわけでしょう。今、あなたの発言を聞いていて思ったのは、ここで三面とか二面って使うのはあまり有効ではないっていう気が私はしました。ここはそんな枠組みで考える必要はない。イメージでもなんでもない。法律で明確な言葉で語られているんです。1項と2項の違いは。イメージとかそんなボワっとしたものではないです。9条2項の冒頭はどう書いてありますか。
 学生 「裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては」って出てます。
 大貫 そう書いてあるから相手方の原告適格は2項にはいかない。本件不許可処分の相手は1項で考える。こういう質問すると半分ぐらい2項挙げる。なんでそうなるかわかる? これ理由がないわけじゃない。どうして? 実は教科書に載っている原告適格の話はみんな要するに第三者の原告適格。みんな2項の話なのです。だけれども、名宛人の原告適格だって当然問題になる。それが1項で処理される。もっとも、名宛人が原告適格を持つのは当たり前ですよ。簡単に言っておきますね。処分法規あるでしょう? 誰の利益を保護しているの? 当然処分法規によって判断される処分の名宛て人の利益を保護しているっていっていいよね。そうでしょう?忘れ去られているけれど、処分法規は第一次的には処分の相手方の利益を保護している。むしろたとえば原子炉の周りに住む人の利益を保護しているっていうのは結構大変じゃないの? だから2項があって、いろんな要素をあげて判断してねってことね。言っていることわかりますか? たとえば、原子炉設置許可を私が申請した。不許可になった。私が取消を求める利益を持つのというのは自明でしょ? 私は許可要件通りにやってもらう、いわゆる広い意味でのこういう利益もってるでしょ? だから誰も論じないわけ、そこは。他方、名宛人でない人の、どの範囲の人が原子炉設置許可の取消訴訟の原告適格を持つかってのは自明じゃないでしょ。そもそも持っていないって言う人がいるかもしれない。原子炉の設置で被害を被るんだったら民事訴訟でやってよって。だから、むしろ第三者が原告適格を持っているって論証がずっと難しいわけですよ。だから2項がある。皆さんよくわかっていますね。
 それでは先にいきますね。仮の救済。設問2。F君。F君は先週あたったからかわいそうだから、H君。
 学生 この学校の施設の使用の許可を求める仮の義務付けの申立てをします。
 大貫 いま、申立ての趣旨がわかるようにいったね。それでいいと思う人? いいね。はい。じゃあ、聞くよ。本件で提起する訴訟、当該学校施設の使用許可を求める申請型義務付け訴訟、これ長くなるので申請型義務付け訴訟と短く呼びますからね。本件で提起する申請型義務付け訴訟には不許可処分の取消訴訟を併合提起しています。この取消訴訟に使える仮の権利保護を行政事件訴訟法は定めています。それはなんですか。
 学生 25条の執行停止……。
 大貫 それが正解ですね。H君の事務所にですね法学部の学生さんが相談に来ましてですね、申請型義務付け訴訟を提起したいんですと。それは可能とH弁護士は明快に答えたわけです。そうしましたら、先生、仮の権利保護をしなければなりませんね。H弁護士は当然ですねと答えた。で、ちょっと聞きかじった法学部のその学生が、先生、申請型義務付け訴訟には取消訴訟、併合提起しますよね。執行停止どうですか、と聞きました。さて、H弁護士はどう答えますか。
 学生 さっきの設問1の時のどの訴訟形態でいくかという考え方がそのまま当てはまると思うんですけど、仮に執行停止をしたとしても、不許可処分の効力というものが許可に変わるわけではないので……。
 大貫 いまの推論いいです。さっき、そもそも不許可処分の取消訴訟って訴えるだけの利益があるのってことをわざわざやったかわかったでしょ。伏線を敷いたわけ。さっきと同じで、執行停止したところでまあ執行停止にも3種類あるけども、効力の停止になると思うけど、本件の場合は、停止したところで許可が為された状態になるわけではない。それでまず法学部生にそう答えた。なるほど、と。それだけですか? と気の利いた法学部生が聞いてきました。納得しました、なるほどと。それだけですか。なんか取消訴訟の場合には他にも何か利益があったような気がしたんですけれど、H先生って言ってきたんですけれども。
 学生 えっとですね……拘束力の話ですか? 何だろう……。
 大貫 さっきの取消判決の場合どう考えた? 不許可処分を取り消すだけでは何の利益も生まないと言うことは一致できる。だけども要するにやり直しの利益ってことでしょ。やり直しの利益ってことがその不許可処分の取消訴訟の場合に考えられているんでしょ。
 学生 はい。
 大貫 それとパラレルに考えていこう。もし執行停止をしてなにか他に利益が発生していれば、いいとも言えるよね。執行停止しても無駄だっていったんでしょ。ちがう? 無駄だと。執行停止してもなんの利益もない?
 学生 はい。無駄だと言いました。
 大貫 無駄だけど、不許可処分の取消判決もそれたけでは無駄なんだよね。そこだけ取ると。でもやり直しってのがあった。やり直し。
 学生 はい。
 大貫 取り消すだけで利益になる場合もあるんだけどね。取消訴訟は。不利益処分だね。建築物の除却命令とかっていうのは取り消されるだけで利益だからね。やり直しの利益なんて言うのは不許可処分なんかの場合に想定すべきだね。なんか利益ないんですか? H先生、て聞いてきたんです。ちゃんとみんな考えてる? どなたかいますか? はい、Mさん。
 学生 行訴法33条です。
 大貫 さっき33条引用したよね。
 学生 4項ですか? 執行停止の決定に準用するっていうのがあるので……。執行停止をした場合にそれに行政庁が拘束されるという利益があるのかな……。
 大貫 利益があるということね? 執行停止の利益があると考えた? まずここで学べることは、執行停止の決定にも、やはり拘束力があるんだということですね。4項で準用されているんだから。ところがよく考えて。準用するのは1項でしょ。2項、3項は準用してないでしょ。2項が準用されていないのがわれわれの場合大きくて、結局、不許可処分が執行停止されたところで、2項が準用されていないから、行政側が許可するかどうか考えるということは義務づけられないということになる。だから執行停止の申立ての利益は基本的にないというのが一般的な考えだ。不許可処分の執行停止の場合にはやり直しに関する利益もない。だから相談に来た法学部生には不許可処分の執行停止の申立てには利益がないと以上2点で説明してやるのが一番普通のやり方。必ず毎年います。執行停止ダメなんですか?って聞いてくる人います。個別に答えるのが大変なので授業でやりました。
 じゃあ、いきますよ。仮の権利保護。これも超特急でいかないといけないですね。仮の義務付けの要件はディスプレイに映した通りです。

 仮の義務付けが認められるには、
(1)本案訴訟たる義務付け訴訟の提起・係属と仮の義務付けの申し立てがあること、
(2)「義務付けの訴えに係る処分又は裁決がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」があること、
(3)「本案について理由があるとみえる」こと(以上の諸要件については行訴法37条の5第1項)、
(4)「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ」があると言えないこと(行訴法37条の5第3項)、
 以上の諸要件が充足されている必要がある。

 本案訴訟たる義務付け訴訟の提起。これ正確に言うと、本案訴訟の係属。適法に係属していることが必要です。そして仮の義務付けの申立てがあること。ここでとりわけ、本案訴訟たる義務付け訴訟の提起というのが重要ね。民事保全法ではこれは条件ではない。皆さんの先輩に「仮の義務付け訴訟」と書いてくる人がいるわけです。あるいは「仮の差止め訴訟」。笑っているけど結構いる。某予備校のテキストに書いてあるって言うんだけど。そんな嘘八百書くなって言いたいんだけど。これは教師的にみると内容わかってないと判断します。行政事件訴訟法にもとづいて保全の訴えが単体で起こせると考えていると推測させるわけです。わかりますか? そんなもん存在しませんから。仮の義務付け訴訟なんて。仮の差止め訴訟も。本案訴訟に付随してしか行訴法の仮の権利保護の申立てはできないのですから、そういう書き方をしてはいけません。ここ大事ね。
 次に、「義務付けの訴えに係る処分又は裁決がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり」という要件です。きわめて中核的な要件ですが、分解していくと、償うことの出来ない損害要件と緊急性要件に分けることができます。しかし、決定例をみていても2つを別々に必ずしも認定しているわけではありません。だから、できるんだったら分けて主張してください。現実には二つの要件が混じりあっている困難な場合があるね。だから主張を書いていくときには一緒でもいいと思う。私はこの1つの要件のあてはめをしているということをわかるような形でやってやれば十分だろうと思います。
……略……
 大貫 いまやったように、(3)については、設問の指示によって答えなくてもよいです〔仮の義務付けの要件の内、本案訴訟の勝訴要件にかかるものについては主張しなくてよいとしている〕。(1)は当然義務付け訴訟は提起するでしょう。提起しないでしょうなんて仮定して、しなかったらどうしましょうなんてこと論ずることないです。当然提起する、申立てもするという前提でいい。そうすると残るは(2)と(4)ですか? (2)と(4)でよろしいですか? 賛成してくれますか? (2)と(4)ですね? じゃ(2)についてあてはめをしてください。先週あたった? K君。
 学生 緊急性を……償うことですか?
 大貫 償うことの出来ない損害を避けるため、緊急の必要性があるということを言おうとしている。
 学生 ……。
 大貫 用意してこなかったの? 突然来るとは思わなかった? じゃ来るということを予想していて今か今かと待っていた人。
 学生 (K君)わかりました。大丈夫です。施設とかの問題ですか? 施設として学校じゃなきゃダメだというのがあるので……。
 大貫 そうですね。分科会開くよね。ホテルとかで到底開けそうもないような設備が必要なんだろうね。どうやら。
 学生 そうなので、代替する施設がこの段階では選べないということだと思います。
 大貫 この段階? 3日前では難しいってことだね。
 学生 右翼団体の話は違いますか?
 大貫 違うんじゃない。だってこれちゃんと考えてみてよ。処分がされないことによる、許可されないことによる、つまり利用できないことによる申立人に生ずる損害ということになる。I君。
 学生 今回の研究集会には1500人ほどが毎年出席しているということが書いてあったので、1500人ぐらいの人が入れる規模の場所ということで……。これからもう調整して1500人規模のところを探すのはもう不可能だろうということを挙げておくことが出来るんじゃないかと思います。
……略……
 学生 T君が言ったように、使用日がきてしまったらどうなんですか。
 大貫 どうなんですかっていうのは?
 学生 仮の救済を求めても、時間がすぎると結局救済されません。
 大貫 なるほど。それはよい指摘だと思います。挙げることできると思います。いろいろあるね。1つの考え方として、こういう考え方があるよ。必ずしも一般的な考え方ではないので注意ね。1つね、皇居前広場事件とは違うという意見があったけど、この日に研究集会をしなきゃならないわけではないとおっしゃったけど、やっぱりこの日にしなければならない意味があると私は思っています。これが1点ね。もう1つ重要な点は、この日に開催したいといっているわけでしょ? 許可をこの日に受けたいわけでしょう。だからこの日を過ぎるといくら本案判決を受けても意味は無い。つまり、当該期日を過ぎると本案訴訟の訴えの利益が失われるとするのが一般的です。そのことをここでいう損害に挙げる人がいますし、事案は別ですが下級審でもこうした考えをした決定はあります。ただ、必ずしも一般的な考えではない。両面の意味がありますからね。だって仮の義務付けが出たらさ、原告から言えば、勝ちでしょ。仮の義務付けだろうが、それに基づいて開催できるんだから。つまり仮の義務付けの段階で、勝負が決まるといってもよいわけです。仮の義務付けは本案先取りになっちゃう可能性がある。でも期日が過ぎちゃうのが問題だねっていう考えもある。過ぎちゃったら困るから、仮の義務付け出してねっていうことを言う人もいる。だから両面ある。
 次は、公共の福祉のところ誰か言ってください。G君。
 学生 公共の福祉については、主張する必要は無いのかなと。
 大貫 おおっと、なんで?
 学生 これは相手方の反論によって主張されるものであって疎明が必要ではないから。
 大貫 こちらから主張し疎明していく必要性はない。正しいです。でもそういう風に厳格に主張疎明責任、主張責任なり立証責任なり疎明責任に注意して答えろっという問題ではないかもしれませんね。
 学生 空気を読んで答えます(笑)。
 大貫 前回ちょっと主張、立証責任をやったけども、本件ではそこまで求められていない可能性がある。でも、おっしゃることは正しいんですよ。公共の福祉については、こちらの側から主張し疎明することではないんですよ。だから、仮の権利保護の事案によっては、公共の福祉の問題が出て来ますけれども、出てこない決定例もあるわけ。なんで出てこないの? 行政側が言わなかったんでしょ。それだけのことで。そういうことで、じゃあ一応、公共の福祉について言ってください
 学生 右翼団体が来てスピーカーで大音量を出して周辺住民に迷惑をかけるっていうのが最も重要だと思うんですけど、このおそれは抽象的であってしかもXが起こしているようなものではなく間接的なものであること。具体的な妨害の動きがあったわけではないから、公共の福祉に重大な影響を及ぼす恐れっていうのは認められないっていう風に言います。
 大貫 行政側が言ってきたと仮定してこっちの方からこういうリプライをしようということで、今のは巧みだと思います。抽象的なおそれはあるわけですから、こういう時にはリプライは具体的なおそれがないという反論の仕方が1つ有効な言い方です。ほかには?
 学生 あとは、開催日は土曜と日曜なので、生徒の登校が予定されてないってことなので、授業とかに支障が出ることはないと言えます。
 大貫 みなさんはモデル判決読まれてきているので…。でも、読んでこなくてもこういうのをひねり出さなくてはいけない苦しさはあると思うんだけれども、そんなところでしょうか。
 次、急がないといけないね。本案上の主張、設問3ということになります。じゃあね、本件は申請型義務付け訴訟を提起するのですが、ここの設問3で聞かれているのは、その申請型義務付け訴訟の勝訴要件ですか? 違う。じゃあ何が聞かれているんですか?
 学生 設問にあるように、本件の不許可処分の取消訴訟の違法性を主張すればいい。
 大貫 そういうことですね。だからシンプルに本件処分、不許可処分に違法なところがあるということをいえばいいんであって、許可処分がなされるべきであると主張・立証する必要性はないということになりますね。まず、じゃあいきましょうか。この処分には裁量の余地があるのでしょうか。ないんでしょうか。あるってことになると、裁量処分を前提としたいろいろな違法事由の主張になるし、ないということになると、明文の要件等に反するというような主張をすればいいんで、この点明らかにする実益は多少あるね。裁量の余地があるってことだと、言えることっていくつか頭に浮かぶよね、言ってることわかる? 裁量の余地があるとなると、違法だっていうふうに攻撃していく手段っていくつかあるでしょ。じゃあその前に裁量の余地がある処分であるといえますか、いえませんか?
 学生 裁量の余地があるという風にいえるとするならば、まず、乙川市の学校の規則の4条のところに「できる」っていうふうな文言がなってて、5条に「許可しない」っていうふうになってて、この施設っていうのは、そもそも原則的には目的外使用許可はしてはならないという規定なので、してはならないことをするには裁量の余地があるんじゃないのか。いろいろ考えた上で、許可をするという裁量があるんじゃないかという風に考えました。
 大貫 とてもいいですね。例外だから、それをするかどうかの判断には裁量の余地があるという考えですね。でも、考える筋道を明確にしておいた方がいいんじゃないかな? 前回やったよね。裁量の余地があるかどうかを判断するポイント。まず、文言に着目する。それから行政機関の判断の性質に着目する、それから問題となっている利益の性質に着目する、これ3つに限られるものではないけれども、少し筋道を立てていくといいんじゃないでしょうか。文言に着目するならば、文言は規則じゃなくて、その上の自治法の238条の4の7項によるべきだと思うんですよね。で、これ「できる」ってなってるね。書いてある要件もこれも裁量の余地を認めるように読め……るよね? 判断分かれる? けど、裁量の余地があると読めることは読める。場合によっては、3つのポイントのうち2つぐらいで結論だしたりすることあるでしょ。これ、ずるいんだけど、それでもいいわけで。今の答えはよいけれど、もう少し整理して提示した方がよくて、文言と「行政機関の判断の性質」を考慮しているように聞こえました。学校を誰かに目的外で使用させるというときには、その当該行政機関の専門的判断が必要だといったらどうですか? 「目的外」っていうことだから、いろんなケースがあり得るって他のクラスで出たけれど、やっぱり現場の行政機関に判断させるべきだと。それからもう1つは、問題となっている利益の性質。「目的外」使用許可でしょ。本来は何かの目的のために使うんでしょ。学校の教育のために使うんでしょ。例外的に使用させるんでしょ。ではこの地位って何? 当然の権利? 特別に与えられるものでしょ。だから裁量の余地を肯定する方向に行くという風に、ある程度筋道たてて考えることができるんじゃないかな。だから裁量の余地は肯定します。これはぱっとやっていいです。この場合裁量の余地は肯定します。一般に。裁量の余地を肯定してどういうことを主張していく? Oさん。
 学生 学校教育で支障があるか、そういうところで裁量を認めて……。
 大貫 それでどういう主張をしていく?
 学生 原告ですよね。原告は集会の自由の重要性だとかを主張したり、裁量を狭めるとかなくす方向に主張すると思うんですよ。
 大貫 なるほど。裁量をなくす方向か。裁量の余地はもう認めちゃったよ。だからなくす必要性ないですよ。処分をしろっていう主張、つまり義務づけ訴訟における主張をしているわけではないから、裁量をなくす主張をする必要性も全くなくって、裁量を前提にしてどこかに変なところがあるって言えばいいんでしょ。ここまで賛同してくれる? イメージできてる? 裁量がある場合だってさっき言ったでしょ。裁量の余地についてはぱっと判断すればいいわけです。だから考え方の筋道立てておくべき。裁量の余地についてサッと結論だして、こんなところであんまり喧嘩してもしょうがないよ。裁量の余地があると認めて、違法な点があると言っていく。裁量の余地があるときの我々の違法主張の仕方がちゃんと浮かばなきゃダメだよ。目的違反、動機の不正とか浮かんでる? じゃあ、その違法主張のカテゴリーで本件では何を使うかまず答えてみて。
 学生 判断過程。
 大貫 もう少しいうと? 違法主張の枠組みを聞いているのです。誘導的だけど。要するに何を指摘するの?
 学生 判断過程の過誤。
 大貫 そう。判断過程の過誤を指摘するというのが皆さんの大好きな手法。もちろん、こればかりではないよね。だけれども1つの手法でしょ? ということで彼が言ってくれたのが出てくる。判断過程の過誤ってのはこんなとこです。ディスプレイを見てください。いろんなまとめ方があります。

判断過程の過誤の指摘の仕方
Ⅰ 他事考慮・考慮遺脱に関する指摘
 考慮すべき項を考慮しているか、考慮すべきでない事項を考慮していないか
Ⅱ 考慮事項の適正考慮に関する指摘(考慮が合理的になされているか)
 (1)(考慮事項そのものに着目して)考慮すべき事項に関する評価が適正にされているか否か
 (2) 過大・過小考慮があるか 重くみるべき事項が重くみられているか否か、軽くみるべき事項が軽くみられているか否か、判断する((1)と違い、考慮事項の比較の視点がある)、
 など(適正でない考慮の仕方はほかにもあろう)

 ○○先生がどうまとめられたかわからいけれども、大体おんなじだと思います。他事考慮、考慮遺脱に関する指摘、つまり考慮すべき事項をピックアップしなかったり、あるいは考慮すべきでない事項をピックアップしたりっていうのがまず第1点のチェックポイント。選び出したものはよかったとしましょう。それに対する考慮が適正でないっていうのが2番目。よく言われる重み付けにおいて間違ったというのがここに入ってくるわけ。重く見るべきものを重くみて、軽く見るべきものを軽く見る。これわかってるね。モデル判決を読んでもそうなってるから、こっちに行っちゃうんだけれども、本件は判断過程の過誤を使うべきおそらくひとつの典型的なケースだろうと思います。はい。これを前提にしてどういう主張にしていきますか? じゃあ答えてくれる? 何を主張する? I君。
 学生 今回の不許可はたしか、規則の5条3号ですよね。
 大貫 そうなんだよね。5条の3号「その他教育委員会が、学校教育に支障があると認めるとき」に当たるっていってるんだよね。
 学生 だとすると、その弊害とか、学校や地域に混乱を招きとか悪影響を与えるっていう事情は考慮してもいいと思うので、他事考慮の主張は難しいと思うんですよね。そうすると、原告としては集会の自由の重要性を前面に出して、その集会の自由に関して考慮が十分になされていないっていうことを主張していくと思います。
 大貫 うん。今のリーズニング、もってきかたは面白くて、何を重視して考慮しなきゃならないかということを憲法的な視点から導き出したってことだよね。でも、集会の自由なり、表現の自由なりをダイレクトにもってこれるケースなんだろうか? 憲法はとても重要だと思いますよ、でも使い方を注意しなきゃいけないと思うんですよ。気持ちはよくわかるけど、本件のようなケースでパブリックフォーラム論なんてのを挙げる人がいる。K君、この考えはどうですか?
 学生 パブリックフォーラム論っていうのは、地方自治法の244条の時みたいに、基本的に一般人とかであっても、目的内でその施設を利用させることが原則だっていえるような場合に憲法上の主張ができるので、つまり、それが制限されているという場合に使えるので、目的外使用の場合には使わせることが原則っていえないので、集会の自由、表現の自由が侵害されてないっていうことになりそうです。
 大貫 前提がないんですよね。誰でも使える公共の場所を前提にした主張だよね。パブリックフォーラム論って。学校施設は、そもそも他の用途に使えないんだよね。学校の教育のために使うところを「特別に」使わせているんだから、だからパブリックフォーラム論を使うのはかなり難しいっていうのが、一般的な考え方です。でも、I君の考えは発想的には面白い。
 さて、規則5条の3号の「学校教育に支障がある」に戻ろう。これおそらく「学校教育上の支障」だよね、1号、2号、3号は、おそらく全部「学校教育上の支障」ですね。学校教育上の支障がある場合の一例なのですね。1号、2号ってのは。学校教育法の137条を見ると明確に「学校教育上支障がない限り」って書いてあるでしょ。これは、地方自治法の238条の4の7項を学校施設に関して敷衍したんでしょ? そう書いてあったよね。事例集48頁の上に書いてあります。こう書いてあるよ。「学校教育法137条は地方自治法238条の4の7項の趣旨を学校施設の場合に敷衍したものといえます」と書いてありますね。つまり、学校施設の場合は学校教育上の支障があるかどうかが、目的外使用許可の際の最大のポイントになるってことですね? S君。
 学生 はい。
 大貫 ここから質問ね。そうすると、行政機関が目的外使用許可をするかどうか考えるとき、学校教育上の支障を考慮するだけでいいわけ? 学校教育上の支障があるなしの判断だけでいいの? ほかのことは考えなくてもいいの? あるいは不許可処分を攻撃する側からいうと、考慮するのは学校教育上の支障だけじゃないでしょと言えるか。ほかのことも考えなきゃいけないんだよという主張ができるかどうか。この条文をみると学校教育上の支障があるかないかということで勝負がつきそうだよね。I君はそれをブレークスルーするために憲法を持ち出してきた。それは難しそうだ。ほかになにかやりようある? 学校教育上の支障の有無だけで決まるとされたら困ってしまわないですか? これ非常に重要な論点だけども、他に何か考慮できると考えた人?
 学生 (Nさん)この集会の目的っていうのを考えて、許可を受ける人の利益も加味した方がいいのかなと……。利益と支障を比べて支障が少ない場合には許可を出すべきだという風な思考ができないでしょうか。
 大貫 いいですね。その思考はどっかで聞いたことある思考なんですけど、どういう思考ですか。
 学生 どっかではあると思います。どこでしょう。
 大貫 なんでそんな思考を思いついたの? 条文のどこにも書いてないじゃない?
 学生 はい。
 大貫 どこにも書いてない。どなたか。Mさん。
 学生 教育公務員特例法の21条2項で「教育公務員の任命権者は、教育公務員の研修について、それに要する施設、研修を奨励するための方途その他研修に関する計画を樹立し、その実施に努めなければならない」といっているので、このことからその任命権者って、たぶん教育委員会だと思うので、その教育委員会は公務員が本件の分科会のような研修をするための施設として、本当に必要な学校施設の提供をする義務が基本的にはあるのかなと思いまして、このことからすれば、不許可にできる支障があるときっていうのはかなり具体的な危険がある場合じゃないといけないって限定されるのかなって。
 大貫 なるほど。面白い発想ですね。それは、ぼくの考えでは、集会の重要性をきわめて重く見るときの理屈付けだと思います。許可をした場合の学校教育上の支障。これは当然入ってくるね。それ以外に集会目的の重要性、許可が為されなかった場合のXの支障などがみられるべきだと思います。どうしてそういうものをみるか? これが問題です。これ比例原則的思考だと思います。不許可にすることによって、許可をした場合の支障を避けるんでしょ? こういう発想に至っている。学校教育上の支障を避ける不許可という手段が適切かどうか考えるときには相手方の利益がどの程度侵害されるのかってどうしても考える。比例原則っていうのはそうでしょう。許可をしたときに学校教育上の支障が生ずるかもしれない。他方誰かの利益が侵害されるかもしれない。許可をしなかったときの支障を考えなくちゃいけない。それが許可が為されなかった場合のXの支障です。さっきMさんが言った集会目的の正当性、重要性もここに関わるんだと思います。それは、Xの支障をどの程度重視すべきかに関わります。集会ができなくなることはXの利益の侵害だ。そこをグッと重みづけるという主張ができるんだろうという風に思います。
 私としては、まず、どうやったら考慮要素を導き出せるかを一緒に考えたかったわけですね。私は比例原則的思考から導き出しました。学校教育上の支障を考慮するのは誰にでも分かる。学校教育上の支障を避けるために不許可するんでしょ? でも、不許可することで誰かの利益が侵害されてるんでしょ? そのバランスを見るのは比例原則的思考です。だから、私はこれ二つとも考慮要素に入ってくると思います。じゃあ最後に適正でない考慮についてはどうかな。
 学生 教員に研修の機会を与えなければいけないのにそれを与えずに判断したってことは考慮不尽にあたるのかなって言う点があります。
 大貫 集会の相当性って言うところでは、先ほどMさんが言ったように、教員にとって非常に重要な集会であるということを主張するべきだろうと思います。その点についての考慮が足りないという主張ですね。じゃあつづけてもう1つ。X側に生じる支障についての主張。
 学生 分科会ができなくなった。
 大貫 そう、さっき仮の権利保護で出てきたこと。要するに、分科会が開催できず他の公共施設等を使っては本集会というのは開催できないというのを挙げていけばよろしい。そのことについての考慮が十分でないというような主張をすればよろしい。
 それと、許可をした場合の学校教育上の支障については考慮できるけれど、この点について不適切な考慮だと言うとしたらどう言いますか?
 学生 支障は抽象的な右翼団体による街宣活動のおそれっていうのを、過大に評価したっていうのと、毎年継続していた集会を開けないってことで、平等原則…。
 大貫 前者はいいですね。後者は同じ職員組合への対応だからちょっと使えないと思う。むしろ挙げるべきは開催日が土・日なので生徒への影響が間接的であるってことを挙げるべきでしょう。その点の判断を誤ったと。

5.最後に

 講義におけるやりとりをテープおこしして原稿を確定するに当たり、この講義に実際に参加していた、ある学生さんに読んでもらったところ、思っていたよりも学生の発言が多く、双方向でのやりとりがされていたことがよくわかった、2コマ使ってこの量の会話をしていたと考えると、盛りだくさんだと思った、という感想をもらった。たしかに、双方向の議論はそれなりにできているが、教員としては、意外に基礎的な事項の確認をしていること、また、教員が解説的な話しをしている部分が多いような気もした。基礎的な事項であっても、実際の事例で確認することは学習上大きな効果があり、また、しっかりとおさえて欲しいところを教員がある程度まとめて説明することも意味があることだろう。もっとも、基礎事項の確認、教員の解説的話しの割合は、学生諸君の予習の水準等にも関係しており、どの程度が望ましいかは一概には言えないであろう。今後も試行錯誤を続けていくことになろう。また、こうした双方向のやりとりで参加学生は知的好奇心を刺激され大いに頭を使っている(テープおこし原稿を読んでもらった上記の学生さんも同様の感想をくれた)。他方で、双方向のやりとりが多いことによって、講義で与えられる判例や学説に関する情報量は多くない。この点は、上で述べたように、講義の後に配付する「解説」に詳細に掲載して、学生諸君の勉学に供している。しかし、行政法基礎を踏まえて行われる公法総合Ⅰ、Ⅱの講義は、事例問題に取り組ませて、行政法の問題に取り組むための思考力を涵養することを目的としており、判例や学説に関する情報を与えることを目的としているわけではない。それらはあくまで、事案を分析し、解決するための道具として意味を持っているに過ぎないと位置づけているから、現在のやり方で問題はないと考えている。

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