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法をつくるということ
社会と法、立法と行政の現場から

弁護士、元個人情報保護委員会事務局 日置巴美

日置巴美 弁護士、元個人情報保護委員会事務局
1981年生まれ。関西学院大学法科大学院修了。国会議員政策担当秘書、任期付国家公務員(内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室、個人情報保護委員会事務局等)を経て、現在弁護士(弁護士法人内田・鮫島法律事務所所属)。著書「ビジネスシーンから考える 改正個人情報保護法」(経団連出版、2017年)他。

はじめに

 あなたは、実感をもって法を学び、扱ってきただろうか。「……しなければならない。」「……することができる。」このように法に定められる決まりは、無から生じたり、知らぬ間にもたらされたりはしない。法は、社会において合意形成がなされて初めて存在し、機能するものである。
 憲法は、「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。」と規定するところ、法案提出には、主としていわゆる議員立法と閣法がある。私は、議員立法の立案に国会議員政策担当秘書として、閣法の立案に行政官として、その双方に携わることができた。
 以下では、2つの職に就いた理由や実際の職務を中心に、秘書と行政官の双方での経験を踏まえて、立法のお話しをさせていただく。紙面の制約上、用語が不正確なところは御容赦いただきたい。

国会議員政策担当秘書と任期付の行政官

  ロースクール生の頃、私は検察志望であったが、任官かなわず同じ頃起こった政権交代を契機として国会議員政策担当秘書となった。私の初志は、社会の素地を整え、誰もが自らの意思と能力、そして努力により夢を叶えられる環境を作ることにあった。弁護士となるより、政策を定め、立法する国会議員を補助することがその初志と通じると考えていた。この想いは今も変わらないが、任期付の行政官となったのは、日本の抱える課題に全方位的に応じる議会ではなく、一つの政策課題に深化して取り組むことができる行政に携わりたいと考えたためである。

[1]国会議員政策担当秘書とは
 国会議員政策担当秘書とは、国会法に定められる特別職の国家公務員であって、国が給与を支給する公設秘書の内、立法補助のために設置されたものである。とはいえ実際の職務内容は、採用する国会議員によって区々で、政策担当の名前通りに議員の政策を担うこともあれば、そうでないこともある。職務上取り扱う法令は、学生・修習生時代に慣れ親しんだものばかりではない。議員の関心によって異なるが、例えば外交・安全保障分野に造詣の深い議員の下では、憲法や日米地位協定を取り扱うこともある。

[2]任期付の行政官とは
 任期付の行政官は、専門家として特定の分野についてその任期の間就労する。国家資格保有者も多数在籍するところ、公認会計士、医師等、各省の所管分野に応じてその業種は様々である。また、私のように法改正及びこれに付随する業務を行う者、法執行を行う者がいるなど、行政事務に携わる局面も様々で、定着した弁護士ポストがある省もある。

議員立法と閣法

 議員立法と閣法の策定に共通するのは、どのような法律を制定するか合意形成をするための作業と法律案を策定する立案作業である。以下、私の経験した立法の過程をお話しさせていただく。

[1]議員立法
 議員立法は、議員の関心から生まれ、国会法56条に則って行われる(議員の所属する党は、議員立法について、政策調査会における審査及び国会対策委員会での承認を要した)。陳情、メディア、参加する議員連盟や勉強会によってもたらされる情報から政策課題を見つけ、現行法における解決ができるか、立法すべきなのか等、検討を重ねる。
 与党議員の秘書であった私が議員立法に関わる機会は少なく、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律案」(解散により廃案)に関与したに過ぎないが、党法務部門会議のWT(ワーキングチーム)で法案作成を行うこととなり、行政庁を含む関係先ヒアリングの調整、諸外国の法制を含む関連法案の調査等、議員が党内の議論を取りまとめる補助を行いつつ、並行して院法制局とともに法律案を策定した。
 議員の意向はもちろん、党所属議員、支援者又は関係団体それぞれの意見、時に対立するそれらを束ね、その政党の政策と合致させつつ立案することが、政策担当秘書に求められる能力である。

[2]閣法
 閣法は、時の政府方針、各省が所管する法律や所掌事務に関する課題解決、また、最高裁が違憲の判断をしたような明確に立法すべき状況にあることなどが端緒となって行われる。
 私の担当した個人情報保護法の改正は、政府方針を端緒とする。平成25年閣議決定の日本再興戦略等を受け、情報通信技術の飛躍的な発展、刻々と変化するデータ利活用の環境に対応しつつ、法制定から10年強が過ぎて顕著であった課題を解消するため、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)下でフルオープンの検討会が行われ、法改正の方針である大綱が策定された。検討会開催中と大綱策定後とを問わず、有識者、関係者からのヒアリングを重ねて法制化作業を行い、与党審査を経て国会へ法案を提出し、個人情報保護法の一部改正法は平成28年9月に成立した。
 ここで、最も法律家らしい事務は、やはり内閣法制局に日参する法制化作業であろう。政策課題を把握、対応策を定め、それを法律として表していく。法の適用されるすべての場面を想定し、必要な規定を設ける。他法令と平仄を合わせつつ、法的な合理性を追求し、文言の一つ一つを徹底的に詰める。時間的にひっ迫した中でもミスが許されるものではなく、慎重を期す。精神を張りつめたままに、この作業を内閣法制局参事官と行い、部長、次長、そして長官の了が出るまで続けることとなる。
 個人情報保護法は、わが国の個人情報保護についての基本法であり、営利・非営利を問わず民間部門の個人情報の取扱いについて定める規制法である。つまり、利害関係者が多岐に渡るものであって、相当のバランス感覚をもってあたらなければ、法の適性を保てないところがある。また、データは国境を越えて取り扱われるものであるから、国際整合性という観点も重要となる。このような法律の改正では、検討会、ヒアリング、そして与党審査の場等で、国内外の関係者からアプローチがなされる。利害関係者は、それぞれの立場で、時に様々なルートで自らの主張を行う。不合理に感じられるときもあるが、そのそれぞれを、この社会の一端を色濃く反映するものとして受け止め、行政官として中立性を失うことなく、胆力をもって社会の実態を法律に落とし込んでいく。これが立案担当の行政官に求められる能力ではないか、と感じられた。

それぞれの現場を経て思うこと

 法案策定とこれに付随する事務の中、学部、ロースクール時代の学びで役立ったことは、基礎的な法知識のみならず、身に着けた法的思考そのものであったように思われる。しかし、文字を通じた他人の経験から得られるものには限界がある。実践できるならば、その方が自分には実りがあるようだった。
 法律を定める立法、運用する行政、そして個別・終局的に問題解決する司法。これらが連関し、絶えず循環することで、変容を続ける社会が機能不全を起こさず存立できるのではないか、と現場を経験して思うところがある。議員立法と閣法、2つの経験を通じて日本という国の仕組みを内側から見聞し、その一端に携われたことによって学んだことは多い。法は、静的な制約として存在するのみならず、動的なツールとして利用できることもあれば、自ら創り出すこともできる。今後も、職域にとらわれず、幅広い分野で活動していきたい。

法を勉強したのはどこですか?
 大学から。秘書、行政官となり実感が伴うも、勉強中。
いちばん使っている法律は何ですか?
 個人情報保護法等、情報の取扱いに関する分野のもの。
いま気になっている法律はありますか?
 情報に関連する法律全般です。
仕事は楽しいですか?
 立法は、困難ながら有意義で、喜びを覚えます。
法とは何でしょうか?
 その時々の社会が現れたもの。不合理さも含めて。

(法学セミナー2016年6月号4-5頁に掲載したものを転載)

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