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スポーツADRに携わる法律家の役割
スポーツ分野の法務に関わる法律家の一例

弁護士 杉山翔一

杉山翔一 弁護士
1984年生。東京大学法学政治学研究科法曹養成専攻修了。Field-R法律事務所所属。スポーツ法学会会員。2014年から公益財団法人日本スポーツ仲裁機構仲裁調停専門員。中央大学法学部非常勤講師、日本大学スポーツ科学部非常勤講師、慶應義塾大学大学院法務研究科グローバル法務専攻非常勤講師。著作にFIFA’s New RSTP Article 12bis/circular no.1468 (Football Legal #3 2015)など。

はじめに

 スポーツ分野の法務は、近年、学生や若手法律家の関心が比較的高い分野です。
 私は、ご縁と周りの理解のおかげで、2014年4月から2年間、公益財団法人日本スポーツ仲裁機構(Japan Sports Arbitration Agency、以下「JSAA」といいます)においてケースマネジメント業務を担当したことで、スポーツADR(Alternative Dispute Resolution)に携わる様々な立場の法律家の姿を目の当たりにすることができました。そこで、今回は、私自身の経験を基に、スポーツ分野の法務の一例として、スポーツADRに携わる法律家の役割を紹介したいと思います。

スポーツADRとは?

 スポーツADRとは仲裁や調停等によるスポーツ関連紛争の裁判外解決制度をいいます。
 スポーツ関連紛争には、選手の契約や移籍、登録をめぐる紛争、不利益処分紛争、代表選手選考紛争、ドーピング紛争など様々なものがあります。これらのスポーツ関連紛争は、緊急性が高く、法律のみならずスポーツ団体が定める規則・規程が適用されるため専門性が高い点が特徴です。
 スポーツADRの長所は、こうしたスポーツ関連紛争を、スポーツ界の”業界ルール”について知見を有する専門家の迅速な解決に委ねられる点にあります。また、仲裁判断を公開するスポーツADR機関も少なくなく、判断内容の透明性もスポーツADRの長所の一つです。このような長所をもつスポーツADRは、スポーツ界において、裁判所に代わる「司法」機能を果たす有効な制度であると考えられています。

わが国の第三者型スポーツADR機関〜JSAA〜

 スポーツADR機関は、スポーツ団体から独立して設置されるもの(第三者型)とスポーツ団体の内部に設置されるもの(内部型)の、二つに大別することができます。
 私が業務を行っているJSAAは、第三者型のスポーツADR機関です。JSAAは、スポーツ仲裁・調停、ドーピング仲裁等を通じて、わが国のスポーツ関連紛争の解決を図っています。
 JSAAに携わる法律家としては、まず、(1)スポーツ仲裁手続きやドーピング仲裁手続きにおいて、仲裁判断を行う仲裁人、(2)スポーツ調停において合意(和解)による解決を斡旋する調停人、(3)これらの手続代理人を挙げることができます。また、JSAAは、(1)スポーツ団体のガバナンスやアンチ・ドーピング、諸外国のスポーツADR機関についての調査研究、(2)シンポジウム、講習会等を通じたスポーツADRの理解増進活動において、法律家のサポートを受けています。このようにJSAAには多様な立場から法律家が携わっており、JSAAは、多くの法律家によって支えられている組織だといえます。
 一方で、私は、JSAAでは、スポーツ仲裁・調停の事前相談、申立書類の要件審査、事案の管理、パネル決定の作成補助、審問期日への出席、審問期日調書・尋問調書等の作成、過去の仲裁判断例の調査等の業務(ケースマネジメント業務)を担当しています。近年、JSAAの利用件数は増加傾向にあり(2014年度の仲裁申立件数は9件、相談・問合せを含めた取扱事案総数は95件)、JSAAにおけるスポーツADRには、より公正さ、正確さ、迅速さが求められるようになっています。手続きが適正に行われなければ、JSAAにおける仲裁判断が後に裁判所において取り消されるおそれもあります。私は、ケースマネジメント業務に携わる法律家として、JSAAにおいて適正な手続きが実施されるよう留意して業務にあたっています。

スポーツ団体内部のスポーツADR機関

 スポーツ団体の中には、内部機関としてスポーツADRを設けている団体もあります。
 そもそも私がスポーツADRに興味関心をもったのは、学部時代に、あるスポーツ団体の内部型スポーツADR機関について、判断者が両当事者から独立しているとはいえないことや、JSAAへの不服申立てが保障されていないことが課題であると考えたことがきっかけでした。
 この問題意識をもって、海外の制度に目を向けたところ、判断者の独立性や構成に配慮がされている制度や独立型スポーツADR機関への上訴が保障されている制度を設けている国際的なスポーツ団体があることに気がつくことができました(国際サッカー連盟のDispute Resolution Chamberなど)。
 このように、比較法的に参照する諸外国のスポーツ団体のスポーツADR制度があることも、スポーツADRの分野の魅力の一つです。また、単に既存のスポーツADRの制度を運営していくだけでなく、海外の制度も参考にしながら内部型スポーツADR機関の課題を検討し、より適切な制度設計を提案していくことも、スポーツADRに携わる法律家の役割だと考えています。

国際的なスポーツADR機関〜CAS〜

 スポーツは国際的なものであるため、わが国の選手・スポーツ団体と、国際的なスポーツ団体等との間でスポーツ関連紛争が生じることもあります。
 スイスのローザンヌにあるスポーツ仲裁裁判所(Court of Arbitration for Sport、以下「CAS」といいます)は、スポーツ界の「最高裁」というべき国際的なスポーツADR機関です。わが国の選手やスポーツ団体がCASを利用した事例もあり、また、ドーピングに関するCASの仲裁判断については、JSAAにおけるドーピング仲裁においても参照する必要があるため、スポーツADRに携わる法律家は、CASの規則・規程や仲裁判断も気にとめておく必要があります。
 さらに、最近では、ドイツ人スピードスケート選手クラウディア・ペヒシュタイン氏がドイツの国内裁判所において提起した訴訟を機に、CASの仲裁人の独立性・中立性についての議論が国際的に行われています。
 上記の訴訟や議論は、JSAAやその他の日本のスポーツADR機関の実務に影響を与える可能性があるため、こうした国際的な問題に当事者意識をもって取り組むことも、スポーツADRに携わる法律家の役割だと考えています。

おわりに

 スポーツADRは、スポーツ関連紛争の特徴を踏まえた長所を有しており、今日のスポーツ界において不可欠な「司法」制度といえます。
 しかし、CASの仲裁人の独立性に疑問が呈されているように、各スポーツADR機関には克服すべき課題も残されています。例えば、JSAAでは、仲裁制度の根幹である仲裁合意の成否が争点となることも多く(JSAA-AP-2015-001号仲裁事案など)、JSAA自身が、改めて関係者に理解を求める活動を行わなければならないという課題に直面しています。
 こうしたスポーツADR機関が抱える課題を克服するためには、法的素養とスポーツ分野の実務経験を兼ね備えた人材が、スポーツADRに携わることが必要です。また、今後、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、わが国におけるスポーツへの関心の高まりと比例して、スポーツ関連紛争が発生することも予想されるため、スポーツADRの専門家の必要性はより一層増していくと思います。
 本稿が、若く優秀な読者の皆様がスポーツADRに対する興味関心を持ち、スポーツADRに携わる法律家を志すきっかけとなれば幸いです。

法を勉強したのはどこですか?
 実務に入ってから学ぶことの方が圧倒的に多いです。
いちばん使っている法律は何ですか?
 民法、法人法、仲裁法、独占禁止法などです。
いま気になっている法律はありますか?
 スポーツADRとも関連性の強い仲裁法です。
仕事は楽しいですか?
 厳しいと感じることが多いですが充実しています。
法とは何でしょうか?
 問題を解決し、より発展するための道具です。

(法学セミナー2016年4月号4-5頁に掲載したものを転載)

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