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国家公務員として働くということ、その使命、その意義

公正取引委員会第二審査 加納友希子

加納友希子
公正取引委員会審査局第二審査
(元経済産業省通商政策局通商機構部国際経済紛争対策室)
中央大学法科大学院既修者コース修了。2011年新司法試験及び新司法試験合格者対象国家公務員試験合格。2012年4月に公正取引委員会に入局、2014年7月~2016年7月までの経済産業省の出向を経て、現職。(※原稿は経済産業省出向当時のもの)

はじめに

 「法科大学院を修了したのに、なぜ国家公務員の道に進んだのか」。周囲の方からはよく問われました。私が、国家公務員の道を目指したのは、法科大学院で独占禁止法を学んだことをきっかけに、競争政策の重要性を認識したことが始まりです。
 そもそも法科大学院の理念は、法曹の多様性を確保し、幅広く社会で活躍する法曹の育成であったにもかかわらず、そのような質問を多く受けることに法科大学院制度の理念と現状の隔離を感じずにはいられませんでしたが、私は国家公務員という仕事に法科大学院で得た知識を生かすフィールドがあると考えており、その想いは国家公務員になった今では確信に変わっています。

「競争」とはなにか。 競争政策の重要性について

 さて、先ほど私が国家公務員の道を志すきっかけとなった、「競争政策」の重要性ですが、そもそも「競争」という言葉を聞いてどのような印象を抱くでしょうか。
 日本人は非常に「和」の精神を尊重し、事業者間で競い合わせた結果として、勝者・敗者が明確化することに非常に抵抗があります。しかし、競争政策は「競争の結果」を直接の目的としているものではありません。国際的に比較して、競争政策の重要度や関心度が日本で非常に低いのも、競争政策への不正確な理解から生じていると考えます。
 それでは、競争政策とはなにか。私は競争政策の根幹は「事業者間の公正な競争環境を整えるための政策」であると考えています。
 事業者の生み出す商品やサービスは、私たちの社会を大きく変える力を持っています。事業者間で活発な競争が行われ、イノベーションが促進することで、今まで見たこともない新しい商品やサービスが生まれます。しかしながら、公正な競争環境が整えられていない社会においては、よりよい商品やサービスを開発・製造するという事業者のインセンティブがそがれるため、そのような商品やサービスが生まれてきません。これは日本の経済成長に対する大きな停滞となります。商品・サービスに対する創意工夫を続け、企業努力を続けてきた事業者が報われ、また、新たなことに挑戦し続ける事業者のチャレンジ精神が報われるような制度、すなわち、事業者間の公正な競争基盤を整えるのが競争政策であり、それが公正取引委員会の使命です。「競争なくして成長なし」。公正取引委員会の竹島前委員長のメッセージがまさに競争政策の重要性を一言で示してくれています。

「政策」に携わる法曹としての国家公務員 任期付職員ではできないこと

 私は、「自分がよりよい日本の成長の発展に少しでも貢献できるとしたら」と考えると、間違いなくそれは自分の人生をかける価値のある仕事だと思い、私は国家公務員の道に進むことを決めました。
 国家公務員という行政の仕事では、法律による行政の原則の下、いくつもの法令を所管し、法律の運用に関わる業務が多く存在するため、法科大学院で学んだ法的知識・リーガルマインドが生かせる場面が数多く存在します。それは、多くの省庁が弁護士等を任期付職員として採用していることからも明らかです。
 では、「なぜ任期付職員ではなく、国家公務員なのか」。それは、競争政策に限らず、やはり、日本の経済、農業、環境、金融政策等を本気で変えたい、進展させたいと考えた時に、任期付職員にできることには限界があると思ったからです。政策を理想的に遂行していくためには、まず、その政策が社会にどのような影響をもたらすかを想像することが必要なため、他の分野に関わる知識が必要不可欠となります。自らの描く理想の日本を実現するために、何らかの政策を立案・企画するためには、行政の様々な業務経験が必要だと思います。現在、私は経済産業省に出向しており、競争政策の業務とは離れているように思われるかもしれません。しかし、こちらの部署で、通商政策の業務に携わることで、通商政策の重要性を学び、国際的な視点から物事を考えるために必要な知識・思考を日々勉強しています。自分の理想を実現するためには、多くのことを学び、広大な視野・大局観をもって行政官として経験を積んでいかなければならないと感じています

行政と法のつながりについて

 では、本論文のテーマである「わたしの仕事、法つながり」について、私の経験をもとに、どのように強いつながりをもってきたかを紹介できればと思います。私は(1)法の立案、(2)法の解釈、(3)法の執行という3つの場面で法と関わる仕事を経験しました。
 まず、(1)法の立案については、2年目に配属となった部署で法令そのものではありませんが、新法のガイドラインの策定作業に携わることができました。ガイドラインは、新法の解釈・運用を明文化する指針であり、企業の経済活動に大きな影響を与える規定の一つとなります。法律の文言から、解釈を導き、適法な事案及び違法な事案の範囲を考え、それを具体的事例としてガイドラインの内容を記載していきます。新法ですから、当然正しい解釈が書いてある基本書はなく、自分が大学及び法科大学院で学んできた法的思考力だけが頼りとなります。
 次に、(2)法の解釈については、現在私が出向している経済産業省で業務として携わっています。現在、私はWTOルールの一つであるアンチダンピング協定を担当しています。本協定の解釈を記載した書籍はほとんどないため、条文や先例を自ら読み込み、正しい解釈を模索していきます。(1)の業務もそうでしたが、答えのない状況で、正しい判断を導いていく過程はまさに法律家としての醍醐味だと思います。
 さらに、(3)法の執行に携わる業務もありました。2年目に審査局犯則審査部に異動となり、北陸新幹線の談合事件の調査に携わり、臨検捜索差押許可状に基づく企業等への強制調査、事情聴取等を行い、証拠から必要な事実を認定していくという仕事も経験することができました。

国家公務員として働くということ、その使命、その意義

 最近、よくメディア等でも取り上げられていますが、「杉原千畝」という官僚がいました。彼は、リトアニアの領事館にいた際に、約6000人のユダヤ難民に日本の通過ビザを発行し、多くのユダヤ難民の命を救ったといわれています。彼が省の訓令に背いた点の評価は別として、彼の功績は「人のために、自分のできることはないか」を考え、行動した結果だと思っています。
 国家公務員のすべての原点はこの考え方にあると思います。「人のために、国民のために、国益のために」、自分は何ができるか、自分はどのように国家公務員として仕事をしていくか、どのような政策を実現していくか、それを考えることが国家公務員としての使命であり、国家公務員として働くことの意義だと思います。
 読者のみなさんが法律を学んできたことは必ず「人のために、国民のために、国益のために」生かすことができますし、それを可能にする力を読者のみなさんは持っていると思います。日本を少しでも元気にしたいと興味を持ってくれる人、その同志が一人でも多く増えることを祈っております。

法を勉強したのはどこですか?
 大学及び大学院で勉強しました。
いちばん使っている法律は何ですか?
 WTO協定の一種であるアンチダンピング協定です。
いま気になっている法律はありますか?
 国際経済法分野の法律をもっと勉強したいです。
仕事は楽しいですか?
 日々新しい学びがあり、とても充実しています。
法とは何でしょうか?
 特定の価値観にささえられたルール。

(法学セミナー2016年2月号14-15頁に掲載したものを転載)

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