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弁護士の福祉分野における活動
高齢者・障がい者を支援する

弁護士 八杖友一

八杖友一 弁護士
1969年生まれ。早稲田大学法学部卒。第二東京弁護士会所属。日本弁護士連合会高齢者障害者権利支援センター事務局次長(2018年4月時点)

はじめに

 弁護士の専門分野も色々ですが、最近は、福祉分野を専門とする弁護士も増えてきました。福祉分野といっても、支援の対象は、子ども、女性など様々ですが、私の場合、弁護士業務の多くが高齢者、障がい者福祉に関連していますので、今回は、私の日々の業務を通じて、弁護士の福祉分野における活動を、皆さんに少しご紹介したいと思います。

福祉分野(高齢者、障がい者)の動き

 現在、日本は他に例を見ない超高齢社会となり(先進国の中で高齢化率が25%を超えるのは日本だけです)、高齢になっても自律した生活を送ることができるよう介護保険法をはじめとする法律や成年後見制度など様々な制度づくりが進んでいます。障がい者についても、保護される対象という捉え方ではなく、自律した生活を送る権利の主体として、生活や支援方法を自分で選択、決定する社会の実現が求められており、障害者総合支援法や障害者差別解消法等の様々な法律や制度づくりが進められています。高齢者や障がい者には、身体能力や判断能力の低下により、これら法律や制度を適切に利用できなかったり、権利侵害の対象になりやすいという特徴があり、この分野を専門とする弁護士の役割は、ご本人、福祉を実施する自治体、福祉サービス提供事業者を支援したり、法律や制度づくりに積極的に関与したりすることにより、高齢者や障がい者が安心して暮らすことのできる社会の実現を目指すことにあります。

高齢者・障がい者の支援

 高齢者、障がい者に関する弁護士業務として、最初に挙げられるのは、判断能力や身体能力が低下した高齢者・障がい者ご本人を支援する成年後見人やホームロイヤーとしての活動です。私自身、現在、10人程の高齢者、障がい者の成年後見人、後見監督人、ホームロイヤー等に就任し、判断能力や身体能力の低下により、日常的な財産管理や生活が困難であったり、不安に感じたりしているご本人について、その意思を尊重した支援を行います。多くのケースでは、定期的にご本人、家族、ケアマネジャー等の福祉関係者と面談し、ケース会議を開催して本人のニーズを把握して、福祉サービス、医療サービス等を手配し、モニタリングします。判断能力や身体能力が低下した高齢者や障がい者は、消費者被害、介護事故、虐待の被害者にもなりやすいため、必要に応じ、ご本人の権利擁護活動(見守りによる被害の予防、加害者との交渉・関係調整、訴訟等による被害回復など)も行います。ご本人に能力がある場合には、希望に応じて、遺言や葬儀、お墓等の死後事務についての委任契約を締結し、遺言執行者や死後事務の受任者に就任して、老後から亡くなった後まで継続的な支援を行うケースも増えています(このような活動を「ホームロイヤー」と呼んでいます)。

高齢者・障がい者福祉を実施する自治体の支援

 また、近年は、高齢者・障がい者福祉の実施主体である自治体の役割が拡がっており、自治体が適切に役割を果たせるよう、弁護士として、自治体を支援するケースも増えています。例えば、高齢者虐待防止法や障害者虐待防止法の施行(前者は2006年、後者は2012年)により、自治体が虐待の予防、虐待の事実確認、確認した虐待に対する適切な対応について責任を負うこととされ、それに伴い、自治体は、虐待をする家族とご本人を分離する権限(措置権)、立入調査権、面会制限する権利、成年後見申立権などを行使することになっています。自治体がこれらの権限を適切に行使せず、むやみに家族と引き離したり、面会を制限したり、成年後見人等を付けたりすると、ご本人に対する権利侵害となってしまうことがあります。また、権限行使すべきタイミングを間違えたり行使を躊躇していると、ご本人の生命や身体の安全が脅かされてしまうこともあります。そこで、これらの権限を自治体が適切に行使できるよう、弁護士が自治体のアドバイザーとして、ケース会議に出席して事実認定や権限行使の要否について意見を述べたり、法令の調査、解釈をサポートしたり、自治体職員に対する研修を行う等の支援をしています。

高齢者・障がい者福祉にかかわる事業者や福祉関係者の支援

 介護保険法(2000年施行)や障害者自立支援法(2006年施行、現「障害者総合支援法」)の施行により高齢者や障がい者の福祉サービスは、自治体が給付する方法から、ご本人が福祉サービス提供事業者と直接契約して自ら選択する方法に変更されました(いわゆる「措置から契約へ」)。高齢者や障がい者が適切なサービスを受けるためには、事業者が、高齢者や障がい者の権利を侵害しないよう法律を遵守し、適切な業務を行う必要があり、事業者には、本人や家族の個人情報の管理や、苦情・クレーム対応、虐待や介護事故の対応等のコンプライアンスの適切な実施が求められており、その支援のために弁護士が必要とされる場面が増えています。私自身、このような福祉サービスを提供する社会福祉法人や株式会社の顧問弁護士に就任し、問題が生じた場合の相談、契約書等の作成・チェック、訴訟・調停等の代理人、職員に対する研修の実施等を行っており、主要な業務のひとつになっています。

日弁連や弁護士会の活動(公的な仕組みづくりや立法への取組み)

 以上ご紹介してきたように、弁護士業務として、高齢者や障がい者分野における様々な支援を行っていますが、支援をより充実したものにするためには、高齢者や障がい者の権利擁護のための公的仕組みづくりや法律の制定・改正等がきわめて重要です。そのため、日本弁護士連合会では、関係省庁、有識者、業界団体等との意見交換、パブリックコメント、各種シンポジウム等を通した意見表明、法案作成、モデル事業の実施など公的仕組みづくりや適切な法律の作成、改正、制度の改善等を国や業界団体に促す取組みを行っており、私もそのメンバーの1人として活動しています。日弁連や弁護士会の活動はボランティアですが、自分の経験や意見が、仕組みや法律に反映されることは非常に有意義な経験であり、自らの専門性を高めるとともに、個別の支援にも役立っています。

おわりに

 従来から、弁護士の業務として、高齢者や障がい者の支援は行われていましたが、近年は、福祉における自治体事務の拡大や、福祉サービスの契約への移行等により、弁護士が必要とされる場面も急増し、より専門性も必要とされる分野になってきました。私は、この分野で活動するにあたって何より大切なのは、高齢者、障がい者の役に立ちたい、という志だと思っています。福祉分野に取り組んでみようと思う方は、法律の学習と一緒に、ぜひ、このような志も育んで下さい。弁護士になったあかつきには、高齢者、障がい者にとってより良い社会の実現のため、ともに取り組んでいただければ嬉しく思います。

法を勉強したのはどこですか?
 友人との自主ゼミと事務所の判例研究会です。
いちばん使っている法律は何ですか?
 老人福祉法と高齢者虐待防止法だと思います。
いま気になっている法律はありますか?
 個人情報保護法。福祉分野ではとても大切です。
仕事は楽しいですか?
 人の役に立ち、大変やりがいのある仕事です。
法とは何でしょうか?
 弱い人の権利を実現し、守るためのもの。

(法学セミナー2015年7月号6-7頁に掲載したものを転載)

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